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#10 観艦式と強盗

 朝食を食べるため、私とマデリーンさんは食堂へ行く。


 夫婦宣言をしてから随分と日が経つが、未だに艦内の乗員からからかわれる私とマデリーンさん。食堂で一緒に食べているときなど、独身男性諸君の妬みもあってか、よくいじられることが多い。


 だが、今日の食堂は騒然としていた。私とマデリーンさんのことを、構うものなどいない。


 この駆逐艦でもっともモテない男といえば、アルベルト少尉の名をあげるものが多いだろう。この小太りで、不気味なオタク顔の少尉。実際に相当なアニメおたくであり、部屋には魔法少女アニメのポスターが多数貼られていると聞く。


 艦内の女性陣は、当然そんな彼にドン引きだ。話しかけようというものもいない。いや、そもそも彼は無口だ。他人と話すこともせず、目つきがいいとはとても言えない彼を、私自身もつい最近まで警戒していた者の1人だ。


 そんなアルベルト少尉と、不釣り合いなほど可愛いらしい魔法少女が一緒にこの食堂で、食事をしているのだ。


 ピンク色の下地に、ふりふりのスカート、紅色のストッキングに露出した肩。おそらく子供向けのグッズの魔法少女の服を着るロサさん。なぜそんな服がここにあるのかは置いておき、サイズ的にも雰囲気的にも、ロサさんにはぴったりだ。


 一言補足すると、この魔法少女は「本物の魔女」だ。マデリーンさんによれば、ロサさんは一等魔女、つまり、空を飛ぶ能力を持つ。本気を出せば、マデリーンさんほどではないにせよ、かなり速く長い距離を飛べる能力はあるそうだ。


 この世がひっくり返っても見ることのできないと思われた光景が見られるこの食堂では、敵艦隊接近の時以上の緊張状態に包まれていた。独身男性陣にとってはショックこの上ない2人の姿である。


 しかもそのロサさんは、アルベルト少尉にすっかりぞっこんの様子だ。通路では手を握って歩いているし、食事の時にはロサさんは、自分のスープをスプーンですくって、アルベルト少尉の口に運んでいた。


 ロサさん的には、アルベルト少尉のこの姿はそれほど気にならないらしい。ピンク色の魔法少女の服を着たまま、にこやかに微笑むロサさん。そんなロサさんのおかげか、アルベルト少尉にいつもの不気味な雰囲気はない。あれほど穏やかな顔をしたアルベルト少尉を、私は初めて見た。一見するとアンバランスな2人だが、どこからどう見てもすっかりお似合いなカップルだ。


「……俺もこの星で魔女の彼女、欲しいなぁ……」


 駆逐艦6707号艦内で働く独身男性の多くが、そんな想いを抱いたのは当然のことだ。


 なお、もう一組のカップルも登場する。アルベルト少尉ほどではないが、モテない男の上位にランクインする男ロレンソ先輩と、サリアンナさんである。ただし、こちらをうらやむものはほとんどいない。


「ちょっと、ロレンソ!今日は何食べればいいの!?」

「そんなに怒鳴らなくても……」

「怒鳴ってなんかいないわよ!これが普通なの、普通!」


 ロレンソ先輩を罵倒するサリアンナさん。はたから見ればロレンソ先輩は不幸極まりない。しかしロレンソ先輩によれば、2人きりの時の彼女はもうデレデレなのだという。極端なツンデレ、それがサリアンナさんだ。


 サリアンナさんも、あんなにロレンソ先輩のこと怒鳴らなくてもいいのにと思うが、これはこれで2人的には上手くやっているようだ。普通の男なら、サリアンナさんのこの性格についていけないだろう。私なら無理だ。


 そういえば、シェリフ交渉官とアリアンナさんはどうなったのだろうか?あの2人とは、マデリーンさんが駆逐艦に乗り込むことになったあの日以来、あの2人とは会っていない。元気にしているのだろうか?


 ところがこの後、実はこの2人に会うことになっている。


 今日は王都にて「観艦式」をすることになっているのだ。駆逐艦6701から6710号艦の10隻が、王都の上空100メートルを一列に並びゆっくりと王宮の前を横切るこの式は、同盟成立を果たしたこの王国と国王陛下へのお礼の意味で行うセレモニーである。


 観艦式に先立ち、私は哨戒機で王宮の周辺を飛び、上空の安全確認を行うことになっている。その後地上に降り立ち、シェリフ交渉官と合流する予定だ。


 なお観艦式の後に、駆逐艦6707号艦は王都の広場に降りて、艦内にコンラッド伯爵様を招くことになっている。王国の事実上のナンバー2である貴族を迎え入れるとあって、艦長は朝から緊張していた。


 昨日は艦長から、コンラッド伯爵様のことをいろいろと聞かれた。


「どのようなお方なのだ、コンラッド伯爵様というのは?」


 貴族というと、どうしても庶民を馬鹿にする鼻持ちならないやつというイメージが強い。ゆえに艦長も警戒しているようだ。私は応える。


「新しいものがお好きな方です。哨戒機に乗られて大はしゃぎでしたからね。それに、とても国民思いな方です。我々の持つ技術や知識を、国民の生活向上に活かせないかと考えていらっしゃいました。」

「そうか。そうなのか。いや、素晴らしい方じゃないか。」


 とはいえ、このコメントがかえって緊張させてしまう原因となったようだ。立派な方に会わなければならないと知れば、誰だって緊張するものだ。


「大事なセレモニーだ。粗相のないよう、飛行せよ。」

「了解致しました!では哨戒機、発艦します!」


 発艦直前の哨戒機内に、艦長からの無線の声が響く。艦長直々に無線に出るのはとても珍しい。いつもとは違う交信ののちに、私は哨戒機を発艦させる。


 なお、機内はいつものメンバーだ。マデリーンさんとモイラ少尉。モイラ少尉は、この哨戒機の任務である王都上空の状況確認のため、そしてマデリーンさんは、地上にて伯爵様を艦内にお迎えする際の対応のためだ。


 王都上空を飛ぶ。近頃は、哨戒機を見ても驚く市民も減ってきた。もはや航空機の飛来など、この王都では日常になりつつある。


 王都の空に飛行する物体がないかを確認する。が、この星に航空機などないため、そんなものはあるわけない。強いて言えば魔女の存在だが、真昼間から堂々と飛ぶ魔女は、マデリーンさんくらいのものだ。


 ぐるりと一周し、状況報告を行ったのちに広場へと降りる。ハッチを開けると、そこにはシェリフ交渉官がいた。


「やあ、中尉殿、お久しぶり。」

「ご無沙汰してます、交渉官殿。」


 相変わらず大きな身体の交渉官。いや、むしろ太ったんじゃないのか?


 アリアンナさんを同伴して、仲良くこのセレモニーの準備風景を眺めている。この2人こそが、この星最初の異星間夫婦である。その次が、私とマデリーンさんだろうか?


「ええーっ!?あんたこのむっつりスケベな奴と、いつのまにか夫婦になってたの!?」

「そういうあんただって、こんな太っちょと一緒になってるじゃないの!」


 この星で異星人を夫に持った最初と2番目の妻たちは、いささか口が悪すぎる。それにしてもアリアンナさんよ、なぜ私は「むっつり」なのか?聞き捨てならないな。


 地上では観艦式の準備が進む。王宮の前の広場には陛下がいらっしゃって、駆逐艦の到着を待っている。その下にはひな壇のようなところがあり、たくさんの貴族達が並んでいた。


「全く、何ゆえ我らをかような場所で待たせるのであるか!?」

「どうせたいしたものは来ないであろうな。全部で10だというぞ。」

「はっはっは、我らを呼んでおいてたったの10とは。せめて5千はおらぬと釣り合わぬな!」


 下段の方にいる貴族達の話し声が聞こえてくる。下の方は男爵と呼ばれる比較的低い階級の貴族だそうだが、確かに鼻持ちならぬ連中のようだ。本当に駆逐艦を5千隻を連れてきてやろうか、そう思いたくなる。


 そうこうしているうちに、遠くに駆逐艦の姿が見えてきた。10隻が整然と一直線に並んだまま、ゆっくりとこちらに接近する。


 最初は悠然と眺めていた貴族達は、徐々に接近する10隻の駆逐艦隊を見て平静さを保てなくなる。もう随分と大きく見えるのに、まだ上を通り過ぎる気配がない。まだまだそれは、大きくなる。


 王宮よりも大きな灰色の1隻目が、ようやく陛下や貴族の前に達する。ゴォンゴォンと低い音を立てながら、全長350メートルの艦が悠々と通り過ぎる。


 駆逐艦の上面には乗員が整列し、陛下の方を向いて敬礼している。通り過ぎた1隻目の駆逐艦の後ろには、重力子エンジンの発する青白い光が見える。


 さて、やっと通り過ぎた巨大な駆逐艦だが、まだ1隻目である。高々10隻の内の1隻が通り過ぎただけなのに、さっきまで威勢の良かった男爵どもはすっかり言葉を失っている。


 続いて2隻目が通過する。番号順に通り過ぎることになっているため、これは6702号艦だ。船体の先端部分に、地球(アース)401遠征艦隊所属の6702号艦であることを示す「401-2-6702」という数字が書かれているのが見える。


 その後も次々に駆逐艦は通り過ぎる。そして、7隻目が現れた。我らが駆逐艦である、6707号艦だ。


 建造されてもう70年以上経つこの艦。小惑星を切り出して作られたこの駆逐艦も、長年の使用で表面には傷や欠けたところがいくつも見られる。


 だがそんな駆逐艦でも、地上にいる貴族達を驚愕させるには十分過ぎる存在だった。まるで灰色の断崖絶壁の岩山が、雲のように浮いて王宮の前を通り過ぎているのだ。しかも、一糸乱れず等間隔で整然と並んだまま進んでいる。


 こうして10隻全てが陛下の前を通過する。これをご覧になられた陛下から、駆逐艦の堂々とした勇姿に感銘するとともに、この国、この星のため力を尽くしてほしいとのお言葉を頂いた。


 極めて冷静な陛下とは違い、貴族達には動揺が走ったままだ。この観艦式の後に、我々の艦隊司令部から派遣された広報担当からの説明で、あの船が1万隻も展開していると聞かされてさらに動揺していた。広報担当に質問が飛ぶ。


「あのようなものを陛下にお見せして、一体お主らはどうするおつもりなんじゃ!?」

「あれでは、我らに対する脅しではないか!」


 質問というより、もはや怒号が飛び交っていた。だが、同盟締結直後ではこの手の質問はよくあることなので、広報担当もマニュアル通り淡々と答えていた。


「脅しではありません。いずれあなた方が保有する船を、ご覧頂いたに過ぎません。」

「は?我らが保有?あのようなものを、我らが持つというのか!?」

「そうです。このことは、国王陛下もご存知のことでございます。」


 実は国王陛下とコンラッド伯爵様は、動画などを用いてこの観艦式の詳細な説明を予め受けていた。同盟締結にあたり、技術供与のことも、いずれ自前の艦隊を設立せねばならないことも、当然ご存知である。


 だが、貴族の多くが宇宙から来た我々の存在を快く思っていないようで、この同盟締結に異を唱えるものは少なくないようだ。そこで敢えて貴族達には説明不足なまま観艦式を行った。


 もはや引き返せない。現実にあのようなものが10隻どころか1万隻もいる。さらにその外には、こんな艦隊を持った星が何百も存在する。いまさら同盟締結に是非など、論じている場合ではない……出席した多くの貴族らは、そう思い知らされたはずだ。ゆえに、広報担当への質問も怒号からこの先の話に移っていく。


「ど、どうやってあのようなものを維持していくのじゃ?10隻ならともかく、1万隻も……この王国の財政が破綻してしまうぞ!」

「一国では維持できません。この星にあるすべての国の協力が必要となります。」

「すべての国!?帝国や、海の向こうにあるとされる未知の国々にまで話を通さねばならぬと申すか!?」

「はい、そうです。すでに帝国とは交渉を開始しております。また、国王陛下にもご助力頂き、周辺諸国とも接触を行なっているところでございます。」

「じゃが、それで本当に維持できるのかのう……王宮を1万も作るようなものじゃぞ。到底成り立つとは思えぬが。」

「大丈夫です。宇宙との交易が開始され、それによって財政的には十分成り立ちます。我々はすでに、400以上の星で実践済みです。」


 それにしてもこの広報担当、本当にマニュアル通りの答えしかしないやつだな。我々とともに歩みましょうとか、もっと気の利いたこと言えないのだろうか?


 一旦離脱した10隻だが、1隻だけ王都に戻って来た。駆逐艦6707号艦だ。手筈通り、王都中心の広場めがけて飛んでいる。


「マデリーンさん。そろそろ我々も行こうか。」

「ええ。」


 広場へと向かう私とマデリーンさん。そこへ、馬車がやってきた。


 伯爵様の馬車だ。駆逐艦6707号艦に乗るため、広場にいらしたのだ。


 ところがまるで岩山のような駆逐艦の接近で馬が驚き、馬車は私の前あたりで止まってしまった。まだ駆逐艦の着陸予定場所まで少しあるというのに、そこで馬車がまったく動かなくなる。


「やれやれ、どうしようもないな……もはや、馬車の時代も終わりかの?」


 馬車から伯爵様が降りて、そうつぶやく。御者が申し訳なさそうに伯爵様に謝っている。結局、我々は伯爵様を伴って歩いて駆逐艦に向かう。


「ところで、お主らは馬車の代わりに、何に乗ってるのだ?」

「はい、自動車というものに乗ります。馬車の代わりにモーターというものを使って走るんです。」

「じゃろうな。あのようなものを空に飛ばせる者らが、馬を使って走るわけはなかろうな。」


 そんなたわいもない話をしながら、我々は駆逐艦6707号艦に着いた。


 すでに広場に着陸し、艦底部の出入り口には10人ほどの将校が整列していた。その前に艦長が立っている。


 艦長がコンラッド伯爵様を出迎えている。しかし、これほど緊張した艦長を見るのは初めてだ。まるで旧時代のロボットのようにぎこちなく動く艦長。


 そんな艦長と伯爵様を見送り、我々も艦内に入ろうとすると、シェリフ交渉官がアリアンナさんを伴ってやってきた。


「あれ?交渉官殿。いかがなさいました?」

「いやね、アリアンナがこの中を見たいというんだ。それできたんだよ。」

「こんな呆れるほどでっかいネズミみたいな乗り物、そうそう見られないでしょう?だからこの豚野郎にお願いしてきちゃった。」

「あんたねぇ……ここは遊ぶところじゃないわよ!」

「なによ、マデリーンに言われたくはないわねぇ。」


 相変わらずなアリアンナさんと交渉官は艦内に入る。我々もついて行った。


 さて、この2人どこに向かうのかと思ったら、まず食堂に行く。で、アリアンナさんは入り口にあるメニューモニターで歓喜しながら交渉官と料理を選んでいる。


「あなたを見ていたら、これが食べたくなったわ。」


 そう行ってチョイスしたのは、ポークソテー。普段「豚」呼ばわりするご主人を前に、なかなかエッジの効いた選択をするアリアンナさん。


 そんな殺伐とした食事を繰り広げる夫婦の前に、サリアンナさんとロレンソ先輩が現れた。


「あれ!?あんた、アリアンナじゃないの」

「あれ?お姉さん、どうしてここに!?魔女の里で草食って野垂れ死んだんじゃないの!?」

「何言ってんのよ!それよりも誰!その横のデブは!」

「お姉さんこそ、誰です?その(ひも)野郎は!。」


 姉妹揃って口が悪い。この遠慮のない会話に、食堂にいる他の乗員はドン引きしている。


「まあいいわ、こんなやつ放っておいて、食事にするわよ!ロレンソ!」

「えっ!?いいの!?妹さんとは、久しぶりじゃないのかい?」

「いいのよ!こっちはこっちでやることあるんだから、行くわよ!」


 そういって、少し離れた場所に座って食事を始めるロレンソ先輩とサリアンナさん。


「うーん、美味いわね、この豚肉!」


 私は普段、アリアンナさんが交渉官の事をどう呼んでいるかを知っている。だから、この台詞には悪意しか感じられない。


 一方のサリアンナさんも、パスタを食べている。こちらは特に意味もなく選んだのだろうが、アリアンナさんがロレンソ先輩のことを紐野郎と呼んでくれたおかげで、こちらまでまるで当て付けのように食べているようにみえてしまう。危ない姉妹だ。


「さ、今日もハンバーグ食べるわよ。」

「好きだねぇ、ハンバーグ。」

「何よ、ハンバーグを教えてくれたのは、ダニエルじゃないの!」


 確かにそうだけど、毎日食べるとは思わなかった。慣れた手付きでフォークとナイフを使い、ハンバーグを食べる魔女。ところで、私はハンバーグに似ていないよな。ついつい機になってしまう。


 ぎすぎすとした雰囲気の食堂に、コンラッド伯爵様が現れた。艦長も一緒だ。


「こちらが我が駆逐艦の食堂でございます。」

「ほう、随分と殺風景な場所じゃな。」

「はっ!なにぶん武骨な軍船ですので。」

「どのようなものを食べておるのじゃ?」

「はっ!こちらのモニターにて食べたいものを選ぶと、奥の厨房で料理が作られて出てまいります。」


 緊張してるな、うちの艦長。その艦長の案内に従って料理を注文する伯爵様。


「おお、よく見ればダニエル殿とマデリーンではないか。お主らも食事か。」

「はい、お先に頂いております。」

「それにしても、ここは不思議なところよの。これだけ大きな船だというのに、人がほとんどおらん。ロボットと申す仕掛けがあらゆるところに使われておる。」

「はい、なにせ1万隻もいますから、なるべく人をかけないよう、機械に任せられるところは任せているのですよ。でないと、とんでもない人員が必要になります。」

「であろうな。軍の維持だけで国家が破綻してしまう。古今東西、軍事費の増大によって滅びた国は珍しくない。それが心配でこの船にきてみたが、なるほど、よく考えられている。」


 そう言って席につき、料理を食べ始める伯爵様。ちなみに伯爵様の料理も、マデリーンさんと同じハンバーグだ。やはりこの分厚い肉料理が気になったようだ。


 食事を済ませた後は、伯爵様を格納庫に案内したりして、艦長のフォローに回る。伯爵様がお帰りになり、役割を終えて通路を歩いていると、整備科の1人が私を見つけて駆け寄ってくる。


「中尉殿。あの、そろそろ哨戒機を収容していただけませんか?」


 ……いけね、広場に置きっ放しだった。彼にはすぐに格納庫に戻すと言い、私は駆逐艦の外に出た。


「マデリーンさんは待っててくれても良かったのに。」

「いいわよ。どうせすることないし。」


 駆逐艦を降りて、少し離れた場所にある哨戒機に向かって歩く2人。外はもう夕方、辺りは薄暗くなり始めていた。


 哨戒機のそばまで来た。私が哨戒機のハッチを開けようとした、その時だった。


 黒っぽい服を着た謎の集団が現れ、ぐるりと我々を取り囲む。手には剣やナイフ、棒などを持っている。彼らがどういう意図で現れたかは、明らかだ。


 私はマデリーンさんを抱き寄せる。周りの強盗にも驚いたが、いきなり抱き寄せる私にも驚くマデリーンさん。


「このまま、じっと動かないで!」


 私のその言葉に合わせるかのように、1人が剣を突き出して突っ込んでくる。私は、腰に手を当てた。


 目の前に剣が迫ったその時、火花が飛び、剣を持った強盗の1人は後ろに弾き飛ばされた。他の強盗も、マデリーンさんにも何が起きたのか分からない様子だ。


 実は腰のベルトに、携帯型の「耐衝撃粒子散布機」が付いている。いわゆるバリアってやつだ。このスイッチを押すと、剣ごときでは貫けないほどの防御力が得られる。


 ただし、作動範囲が半径60センチほどと狭いため、マデリーンさんを守るためには、範囲内に引き寄せないといけない。


「おのれ、怪しい技を……」


 ぐるりと取り囲む強盗達。警戒しつつも、ジリジリと迫ってくる。このままでは危ない。私は牽制のため銃を取り出す。目盛りを半分ほど回して、地面にめがけて1発撃った。


 青白い光が放たれる。着弾した地面に敷かれた石畳みが一瞬真っ赤になり、次の瞬間弾けるように爆発する。日が暮れかかって薄暗く静かな王都に、爆音が響いた。この破壊力を目の当たりにして、強盗達は引き下がる。


「何事か!!」


 近くにいた見張りの兵が数名駆けつける。それを見た強盗達は、たちまち散り散りになって逃げ始める。が、私に剣を破壊された1人は逃げ遅れ、兵の一人に捕まる。他の強盗も兵達に追いかけられていた。


「大丈夫ですか!?」


 兵士の1人に声をかけられる。どうやら、先ほど帰られた伯爵様の護衛についていた兵が、爆音に気づいてこちらに駆けつけてきたようだ。


「はい、大丈夫です。」


 私は短く答えた。その兵士の目線の先を見ると、無惨にもえぐり取られた石畳みの地面に空いた穴に向けられていた。


「あ、すいません……直ります?」

「はい……我々でなんとかいたします。」

「……よろしくお願いいたします。」


 致し方無いことだが、私の放った銃撃で穴を開けてしまったのはまぎれもない事実だ。兵士の一人には謝っておいた。


 さて、マデリーンさんはといえば、銃の発砲から兵士とのやりとりまでを、ただ黙ってじっと見ていた。


「マデリーンさん、帰ろうか。」


 話かけるが、ぼーっとして心ここに在らずといった感じだ。


「……大丈夫?」


 心配になって話しかける。すると、マデリーンさんがこんな事を言い出す。


「私、人前で抱きつかれたの、初めてだわ……」


 ああ、そういえば、とっさのこととはいえ、思わずマデリーンさんを抱き寄せてしまった。


「いや、マデリーンさんを守らなきゃって思ったから、つい……」


 別に夫婦なんだから不必要なのだが、つい気恥ずかしさから言い訳っぽいことを言ってしまう。するとマデリーンさんは、微笑みながら私に向かって言った。


「私のことを守らなきゃなんて言ってくれたの、あんたが初めてだよ。」


 それを聞いて、私はますます恥ずかしくなってきた。顔が熱くなるのを感じる。そんな私の腕に、マデリーンさんはそっと寄り添ってきた。


 危うい出来事ではあった。だが、この事件が我々夫婦の仲をさらに深めることとなった。

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