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第六話 四者会談

「名乗る名などない」


 少しの沈黙の後に続いたその言葉にわたしは首を傾げました。人間には名乗りたくない、という事でしょうか。


「また一言で済ませてるし……お嬢ちゃん、精霊には決まった呼び名なんて存在しないの」


名前が無い? 名前が無いと会話で不便だと思うのですが……


「あの、ではお二方はお互いの事を何と?」

「アンタ、アレ、アイツ」

「お前だとか奴だとか、その辺りだ」

「……よくそれで誰の事を言っているのか分かりますね」


 精霊だってこの方達二体だけという訳でもないでしょうに混乱しないのでしょうか。


「基本的に精霊は思念で意思のやり取りを行う。思い浮かべた者に言葉が届くのだからわざわざ特定の名を持つ必要性が無かった、それだけの話だ」

「ですが先程から普通に会話していますよね?」


 何故か睨まれました。一度大泣きしてからは随分とこの精霊にも慣れましたがやはりまだ少し心臓が握られたような苦しさを感じます。


「毎回思念と人間の言葉と、使い分けるのが面倒になっただけだ」


 わたしのせいだと言いたいのですか。


「まあ、今はそのような事はどうでもいい。問題はこの危険物の扱いについてだ」

「アイツも呼んで話通した方がいいかもよ。割と真面目な話になるし」


 またわたしには理解できない話を二人だけで進めています……それにしても先程から厄介だとか危険物だとか白い精霊のわたしに対する評価があんまりです。


「そのお話、当事者であるわたしにも聞かせて頂けるのですね?」


 また訳も分からず放置されるのはお断りです。先程の二の舞を避ける為存在の主張をして訴えました。


「よかろう。ただし二度と泣き喚くような真似はするな」

「最初からわたしに理解出来るよう話して頂ければ、あのような振る舞いをする事はありませんでした」


 そこはわたしの名誉の為に譲れません。しっかり反論をしておくとくすくすと小さな笑い声が聞こえました。


「最初はあんなに不安げだったのに随分慣れたわねぇ。今アイツを呼び出したからもう少し待ってて」


 その言葉通り、わたしの前にもう一人の男性が現れました。

 濃い灰色の髪は短く乱雑で、ほんの少し白い精霊に似た顔立ちで紫の瞳がこちらを見定めるように見つめてきます。


「どこで拾って来たんだコレ」

「それを説明してくれるらしいからとりあえず座ろっか」


 わたし、仮にもこれまで王女として遇されてきたというのにここへ来てからというもののどんどん扱いがひどくなっているような気がしています。

 灰色の精霊も含めて四人で中心に向き合い不思議な集まりでの説明が始まりました。ずっと草地に座ったままなので足が少し痛いけれど我慢します。


「私が近頃増えつつある人間について、不審な点が無いか見回っていた時の事だ。ある場所に強い魔力を感じ、気になって調べようと近づくと突如召喚され……そこにこの娘がいた」

「え? アンタこの子に召喚されたの? ホントに?」

「何やってんだか。かっこわりぃ奴」


 面白がって茶化す赤銅色の精霊と呆れたような灰色の精霊に鋭い目線で睨み付けていましたが今は話を優先することにしたようです。


「どうやらこの娘の持つ魔力を餌にする事で、通常より遥かに強力な召喚が可能となっていたようだ。喚び出した者自体は凡庸な人間でしかない」

「つまり女の子に引っかかって捕まったと」

「お前は何を聞いていたのだ!」


 ちょくちょく茶化してくる赤銅色の精霊のせいでちっとも話が進みません。


「とりあえずは、こちらの精霊様のお話を全て聞いてからにしませんか?」


 あまり堪えていないようですが一応は黙っていてくれるようです。


「はぁ……それでだ、この娘の存在によって初めて知った訳だが人間達は恐らく数百年程前から精霊を召喚しては人間の体内へ魔力を取り込む儀式を行っていたらしい。魔力を持つ子により強い魔力を与え続けそうして出来上がったものがこれだ」


 紅と琥珀色と紫の三対の瞳が一斉にこちらへ向けられました。


「数多の精霊の魔力が混じり合い、人の身とは思えぬ魔力を有している。初めはそれこそ微弱な力しか持たぬ精霊しか喚べなかったのであろう……しかし何度も繰り返す事によって魔力は凝縮され今に至ると推測している」

「それで何か困ったことがあるのでしょうか? 作物が採れすぎても問題ないではありませんか」


 ひと段落着いたところでふとした疑問が浮かび、尋ねてみます。無理矢理産みだす方法は非道ではありますが、魔力を持って産まれただけならむしろ良い事ではありませんか。


「それだけの魔力を持ちながら使い道を知らんのか?」


 わたしの欲しい回答ではなく質問が返ってきてしまいました。少々納得出来ませんが答えてあげましょう。


「わたし、魔力は大地に注いで土地を豊かにしたり災害から守るくらいにしか使った事がなくて……他に出来る事があるのですか?」


 首を傾げて周りの様子を窺ってみると、青ざめた顔・目を見開いた顔・眉間に皺を刻んだ顔と三者三様の反応が返ってきました。


「……確かにこれは危険物だわ。すぐに連れ込んだアンタえらい!」

「よくもまぁ今まで何事もなくいられたもんだ」


 どうやら想像以上に問題があったようですが、その理由にさっぱり見当もつきません。答えを求めて白い精霊を見やると溜息をつきつつ説明を続けてくれました。


「精霊の魔力は何にでも使える無限の力という訳ではない」


 あら、先程の質問では使い道が沢山あるように思われたのですが違うのでしょうか?


「精霊には各々得意とする力の使い方があり、それ以外の分野においては勝手が違う為まともには扱えん」


 成程、使えない事はなくても効率が悪いという事ですね。


「ところがだ、お前の場合は過去何十代に至るまでの間実に様々な種の精霊を取り込んだようだ。初めこそ本当に大地の豊穣と守りの力にしか使えなかったのであろうが、今のお前は炎を操り風を起こし冷気を呼び傷を癒し、あらゆる方面へ最高の効率で行使が可能となっている」

「もしお前が他の使い方を知っていた場合悪い方向に使おうとすればいくらでも世の中を荒らすことだって出来た。それこそ世界中の人間を全滅させることだって出来ただろうよ」

「ま、本気でそんな事するつもりがあったなら真っ先にアタシらが気づいて対処はしてたと思うけど」


 それぞれが語る言葉に背筋がぞっとしました。わたしが考える以上に問題だったようです。


「わ、わたし世界をどうこうしようだなんて考えた事もありません!」

「お前がそのつもりがなくとも存在するだけで敵対する者にとっては喉元に刃物を突き付けられたも同義。それを利用してお前の周囲の人間が思い上がらないとは限らん……つくづく人間が目先の物に釣られる性質でよかったというべきか」

「そんな……」


 利用する為に産みだされた命で、その上今では存在するだけで危険視されてしまうだなんて。

 ああ、成程……わたしが連れてこられた理由がわかりました。


「だから私を処分する為にここへ連れてきたのですか?」


 死を覚悟するような状況になったのはもう何度目でしょう、もう覚えてもいません。わざわざ灰色の精霊まで集めたという事はわたしが抵抗した際に万全を期しての事でしょうね。静かに精霊の沙汰を待ちました。

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