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第四話 力を持つ者

 数分にも渡る長い詠唱が終わると同時に魔法陣の外周部から薄い膜のようなものが立ち上がりました。……まるで見世物のようですね。これは精霊が言う事を聞かず暴れ出しても問題の無いようにする為の檻でしょうか。


「……?」


 視界の端で何かが動くのが見えました。皆が目を見開き呆然としているのは、余程おぞましい姿の精霊が現れたのでしょう。

 そちらを見ないようにそっと目線を逸らした時、初めて聞く声が辺りに響きました。


「人間が私を呼び出すとは……何が目的だ?」


 低い、怒りを含んだ地を這うような声。声の主を探して目線をやれば皆が呆気に取られていた理由を理解しました。

 その精霊は人間の、男性の姿をしていました。

 白い髪は腰に届く程長く見ただけでその髪の細さ、美しさが分かります。随分と古めかしい仕立てですが見た事もない上質な布で作られた衣装もまた白く、整った顔に浮かべた冷たい表情と相まって氷のような方というのが第一印象でした。


「おお……! 何という強大な魔力……!!」

「人間の姿をした精霊など歴史上初めてではないか?」

「母体としての聖女もついにここまでの精霊を呼び出せる程になったとは……」


 我に返った周囲の者が途端に騒ぎ出し口々に喜びの声を上げています。己の問いを無視される形になったその精霊は再度声を発しました。


「……聞こえなかったか?何用かと聞いている」


 まるで雨に降られた時のようにひしひしと肌に魔力を感じます。それは周りも同様で慌てて居住まいを正し精霊の前へ跪きました。


「失礼致しました、私はこの国の国王にございます。精霊様の持つ強大な魔力を分け与えて頂きたくお呼び立て致しました」


 国王の方へと向き直った為私からその表情は見えなくなりましたが、ひやりと気温が下がったような気が致します。


「どうぞその娘へ貴方様の魔力をお与えください。そして精霊の子を我らに!」


 精霊が顔だけこちらへ向けて睨み付けてきます。血のような紅い瞳で見つめられると、心臓が射貫かれたような緊張が走りました。


「……成程。随分とまた厄介な代物を作り出したものだな」


 私の方へは目線をやっただけで何かしらをするつもりはない様子。だからといって逃げ出す事の出来ない状況なのには変わりはありませんが。


「精霊様、只今結界を張ってあります故その娘に子を宿して頂かない限りお帰りになる事はできません」


 やはりこの魔法陣はそのような効果があったのですね。どこまでも確実に成功させる為の念の入れように逆におかしくなってきました。

 ……お相手が、人の姿でよかった……瞳を閉じ全てを諦め受け入れようとした瞬間、空気が一変しました。


「人間が、この程度の結界で、私を封じたつもりだと?」


 怒気を孕んだ声が重苦しい程の魔力と共に辺りに漂います。精霊は魔法陣の膜へ手を伸ばすといとも容易くそれを打ち破りました。


「何という事だ……!」

「急ぎ、結界の張り直しを! このままでは危険だ!」


 漂う魔力の強さにカタカタと燭台が音を立て震えているかと思えば部屋の壁に亀裂が走っています。そしてわたしを捕らえていた枷も祭壇にひびが入ることによって脆くなり、力を入れて手首を持ち上げればその戒めから解放されたのでした。


「我が魔力を得ようなどと愚かしい考えは二度と持たぬ事だな。次は無い」


 精霊が戻られてしまう……! わたしは手が自由になると足枷を、続いて猿轡を外し精霊の纏っていたマントへ取り縋りました。


「お願いします! わたしをここから連れ出して下さい!」


 今までの様子から人間に対し友好的でないのは明らかです。それでもここで縋らなければまた別の精霊が呼び出され今度こそ本当に生贄にされてしまうでしょう。

 例え精霊の怒りを買って殺される事となっても、この身を汚されるより、自死するよりは余程ましです! 怖くて精霊の顔を見る事はできませんがただただ、必死でした。


「ここから逃がして頂けるだけでよいのです。他に何も望みません」


 返事を待つまでの時間が永遠にも感じられました。殺される覚悟はできましたがこのまま置いていかれる事だけは耐えられません。


「……邪魔だ」


 マントを強く引かれ手を離してしまい、わたしの内心は絶望で彩られました。

 しかし次の瞬間わたしの身体はマントにぐるぐる巻きにされ宙に浮く感覚に翻弄されました。


「人為らざるこの娘は人の世に在ってよいものではない。今後は我々精霊の管理下に置く」


 わたしを抱き上げた精霊は高らかにその場の者へ告げると、召喚された時と同じように音もなくたちまち姿を消してしまいました。

 ……今度はわたしを連れて。

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