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第三十話 精霊の力2

 外へ飛び出したわたしはしばらく走り、そして足を止めました。


「……どこにいるの」


 ルージュには協力はしてもらえないでしょう、ならば自分で探すしかありませんが一人でろくに出歩いたことのない身ではこの広い領域から見つけ出すのは至難の業でした。

 そこで羽織ったマントの存在を思い出しのはそれからすぐのこと。街で迷子になった時、わたしの魔力が使われたのを察知しブランが迎えに来てくれました。それならわたしにも同じことが出来る筈です。

 手にしたマントからブランの魔力を感じ取りそれと同じものがないか辺りを探っていきました。


「……見つけた」


 遠くに、具体的な距離は分かりませんが強い魔力の揺らぎを感じました。それとは別にもう一つ、恐らくそれがグリスでしょう。方角が分かればそこを目指すのみ。再びわたしは駆け出し……そうになったところを引き留められました。


「……どれだけ距離あるか分かってるの?」

「ルージュ!」


 振り返った先の彼女は呆れたような顔をしていてわたしの肩に手を添えてきます。


「止めても無駄ですから! 離してください」


 妨害を恐れて彼女の手を振り払おうとしてもあっさり躱されてしまいます。急がなくてはいけないのに、焦るわたしの様子に彼女はくすりと笑みを浮かべました。


「また迷子になられちゃ困るからね」


 わたしの手を取ってそう呟くと、瞬時に周りの雰囲気が変わりました。……どうやら現場付近まで連れて来てくれたようです。


「この先の方であいつらが睨み合ってる。近寄っちゃだめよ、余波でこっちがどうなるかわからないんだから」


 ひしひしと肌に突き刺さるような強い魔力は探らなくとも発生源を突き止められる程。彼らがここまで精霊としての力を振るう状況は初めてで、普段どれだけ気安くても彼らが人間とは違う高次元の存在であることを思い知らされました。止めに来たのに圧倒されて足が震えて動けません。

 それでも少しずつ進んでいくと森の風景が途切れて広場のようになった場所の中心にブランとグリスの姿が確認できました。……よく見ると最初から広場になっていたのではなく、周囲の木々が吹き飛ばされた結果なのがよく分かりました。


「ルージュ……彼らは……」


 ブランの周囲にはかつて見た光の膜が立ち上がり、彼はその膜へ手を当てそれを破ろうと試みているようで、グリスもまた破られまいと力を注ぎ込んでいるのが分かり完全に膠着状態にありました。


「守りの精霊が全力出して作った結界なんて普通は触れることすら難しいのに強引に破ろうとするから一点に特化させるしかないの。そして破れる傍から修復してるから……お互いの根競べでしかないわね」


 遅れてやって来たルージュは冷静に分析していますがそれでも彼らの顔は苦悶で歪んでいて長くは持たなさそうに思えます。

 その時ブランが片膝を着いたのを目にしてわたしは走り出しました。


「待って! もうやめて!」


 わたしの声に驚いた彼らがそろってこちらへ顔を向けます。近づこうにもまるで嵐のように強い圧力を感じすぐに足を止めざるを得ませんでしたが一歩一歩立ち向かうように進んでいきました。


「フィナル!?」


 ブランの意識が逸れたその一瞬でした。ブランが弾かれるように後ずさり同時に周囲に満ちた力も治まりました。……グリスの結界が完成したようで、わたしも普通に動けるようになりブランの元へと駆け寄ります。

 ただ彼とわたしとの間は半透明の光の壁によって阻まれてしまいました。


「ブラン……わたしが気を散らせてしまったから……ごめんなさい……」

「……何故お前がここにいる。待っていろと言った筈だ」


 原因はわたしだというのに責めようとしない彼は、わたしがここにいるのが何よりも気になるようでした。


「ルージュに連れてきてもらいました。……貴方達が争っていると聞いて、居ても立ってもいられなくて」


 不意に背後から足音が聞こえて振り返ると息を荒くしたグリスがこちらへ歩み寄って来るところでした。彼もまたブランを抑え込むのに力を使ったのだとわかります。わたしは彼に結界を解いてもらおうと詰め寄りました。


「グリス! こんなことはやめて早くブランを解放してください!」

「……足止めだけのつもりだったがお前がここにいるってなら丁度いい。小娘、お前に選択肢をやる」

「選択肢……?」


 けれどグリスはそれも意に介さず、逆にこちらへと問いかけてきました。

 ……彼は何を言っているのでしょうか、既に彼から提示された選択肢の内わたしはブランを選んでいます。その疑問に答えるように彼が語りだしました。


「俺が解除しない限り、奴はこの結界内に囚われ続ける。ここから離れる事も出来ず誰も近寄れず、孤独に精霊としての長い時を過ごすしかない」

「そんな!」


 驚くわたしに構わず彼は続けます。そして提示された選択肢は、以前のものよりも選び難い苦しみに満ちていました。


「だからお前が選べ。お前が自由にするってなら奴は永遠にこのままだ。それが嫌なら奴を忘れ腹の子を消し、人間の子を産め」


 そうすれば奴を解放してやる、と告げたグリスの顔は何の感情もないようにただ静かなものでした。


「わ……わたしは……」


 選べない。お腹の子供を無かったことにしてしまうのも彼の自由を奪うのも。それにブランがいなければ生まれた子供も育ててくれる人がいない……実質彼が提示した選択は一つしかないようなもの。即答出来ずグリスから距離を取ろうと後ずさると結界の壁にぶつかり衝撃で弾かれてしまいました。結界内のブランが壁を破ろうにも上手くいかず怒りの色を露にしています。


「貴様……何ということを……!」

「俺だってこんな手は使いたくなかった、けど小娘を生かす方法なんかこれくらいしか思いつかなかった」

「……お嬢ちゃんの望み通りにしてあげたくてもこうなるとアタシじゃ手は出せないから。ごめんね」


 彼らはわたしの命を最優先に考えてこういった手段を取ったのでしょうが、そこにわたしの意思は何一つ含まれていません。ルージュも絶対的な味方になってくれた訳じゃない、彼を助け出せるのはわたししかいない。


「今回はお前に時間はやらねぇぞ。放って置いたら何やらかすかわかんねぇ」


 それは前回の事を指しているのでしょうか。結界からブランの魔力は感じ取れず、ここを離れてしまえばわたしが彼の元へ辿り着くことは出来ないでしょう。そうなると最終的には彼は永遠に囚われたまま。

 なら、わたしがブランをここから出せたなら。


「どちらも嫌です」


 彼らに宣言して背後へ振り返り、結界の壁に手を伸ばしました。


「っ!」


 触れた瞬間強い反発を感じ、痺れるような痛みを受けました。……ブランはこの痛みに耐えて抵抗していたのですね。


「フィナル!」


 中のブランが焦った表情で内側から声を掛けてきますがやめる気はありません。魔力の強さでいえば精霊の彼らに到底叶う筈はありませんがわたしは彼らにはない特徴があるのですからそれを活かせれば、もしかしたらきっと。


「無駄な事はやめろ! 人間が俺の結界を壊せる訳ねぇだろ!」

「怪我する前にやめましょ?」


 後ろで宥める声が聞こえます。無理矢理引き剥がそうとしないのは彼らも危険だからでしょうか。

 止める言葉は聞き入れず結界を壊すよう魔力を注いでいきます。流す傍から反発されそれはわたしへの痛みとして返ってきました。やはり正攻法では駄目ですね。


「……同時に魔力を扱う練習が役に立ちました」


 思い出すのはブランとの練習の日々。ブランは火や水などを同時に扱う術に長けていてわたしは彼からその方法を教わった。そしてわたしは彼とは違い、守りや癒しの力だって使える。

 ……それを同時に使えば!

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