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第二話 人生最高の日

 今日、遂に待ち望んだ婚姻の儀式を迎えることになりました。

 侍女も朝から忙しなく働き息つく暇もなさそうです。わたし自身はというとやはり入念な身支度で動けそうもありません。


「フィナリール様何とお美しい。純白の衣装に黒髪がよく映えますわ」

「これ程までに艶のある髪は国中探しても他に見つからないのではないでしょうか」


 侍女達が口々にそう褒め称えてくれますがわたし自身は実はこの髪はあまり好きではありません。ただでさえ暗くて重い髪色に真っすぐに落ちる癖のない髪、どうしても地味な印象を与えてしまいます。

 黒髪は代々の聖女の色だと伝えられていますがどうせならシルヴィアのような、お父様と同じ華やかな金髪に産まれればよかったのにとこっそり内心で愚痴を吐いてしまいます。それにシルヴィアはお義母様譲りの大人びた美貌にすらりとした長身で、自身の幼い顔つきや低い身長と比べてしまうと彼女の方が余程聖女らしく見えます。

 このようなわたしでも「聖女」として称えられるのは常にわたしを立てて後ろに控えてくれたシルヴィアのお陰かもしれません。


 全てが整い花婿衣装に身を包んだエリオット様にエスコートされて粛々と婚姻の儀式を行います。国王陛下(お父様)の前で誓いの言葉を述べ、それが認められて晴れてわたし達は夫婦となりました。並んでバルコニーに立てば集まって来た国民が盛大な祝福を贈ってくれています。


「こんなに大勢の方に祝って頂けるなんて……」

「国民は君がどれだけ国の為に尽くしてきたか知っているからね。君の人望の賜物だよ」


 そっと肩に手が置かれ、今までにない接触に心臓が激しく騒ぎ出しました。


「照れているのかい?そんなに顔を赤くして君は本当に可愛らしいね」

「……あまりからかうのはよしてください。慣れていないのですから」


 恨めし気に睨み付けてみても楽し気に微笑んだ表情は変わらずで。きっとこれからもわたしはこの方には敵わないのでしょう、そんな気がしました。


 儀式の後は国の中心人物を集めてのお披露目、祝宴があります。

 次々と次期国王とその妻へ繋ぎをつけようとひっきりなしの挨拶に追われて気疲ればかりです。わたしは普段は政治や経済についてはあまり関わっていなかった為殆どエリオット様任せで、隣で微笑むのが仕事のようなものでした。


「フィナリール王女殿下に御眼に掛かれた事光栄に存じます。ご結婚の祝いに当商会の商品をお持ちしました。つきましては今後もわたくし共の商会を是非お引き立て頂きたく……」

「フィナリールに贈る物はまず私が目を通してからにしてくれないか。今後彼女をあまり他の者の目に晒したくはないのでね」


 エリオット様ったら、何て事を人前でおっしゃるのでしょう!商売でお世辞を言っただけの相手に嫉妬だなんて存外やきもち焼きでいらっしゃったのですね。誰にでも分け隔てなく接する方ですから少々不安に感じた事もありましたがこれ程に愛されていたなんて…


「これは失礼致しました。では是非次回は殿下に王女殿下への贈り物を見立てて頂きたく存じます」


エリオット様の言葉に少し驚いていたような商人もすぐに営業用の笑顔となって早々に引き下がっていきました。やきもちは嬉しく感じますが、わたし自身でどのような品を取り扱っているか確かめたいのにあんまりです。


「エリオット様が選んでくださるのはよろしいのですが、本人に確認もせずに断るのはあんまりです」


 つん、と顔を背けて不満を訴えてみるのですがあまり効果はありませんでした。


「大切な君を閉じ込めておきたい、という私の気持ちが先走ってしまったようだ。君が選びたいというのなら全ての品を用意させるからそれで問題はないね」


 わたしの手を取ったエリオット様は手袋越しに口づけをしてきてちっとも分かってくれていません。羞恥で顔が赤くなるのを楽しそうに見つめるだけです。今はまだ慣れていないからいいようにされていますが今に見ていてくださいませ!

 内心ひっそりとした決意をしつつその後も何人もの来客から祝福を受け、宴は何事もなく終わりを迎えたのでした。


 そして今わたしは新しく整えられた夫婦の寝室で一人待ちぼうけになっています。


「まだ戻られない……いくら何でも遅すぎます」


 祝宴の後ようやく夫婦になって初めて二人きりの時間が持てると思ったら、エリオット様は次期国王として会議に出席する必要があると言って、わたしを部屋に置いて出かけてしまったのです。


「折角の新婚初日にわざわざ会議を入れるなんて日程の調整が合わなかったのでしょうか」


 一日くらい遅らせても問題はないのに、と考えがよぎりますが、いずれ王となる身なら私事は後回しが当然だというエリオット様に文句を言う事も出来ません。寝台に腰かけぼんやりと時間を潰していた所に入室許可を求める侍女の声が届きました。


「夜分失礼致します。国王陛下より、王女殿下のお呼び立てがございます」

「お父様が……? わかりました、すぐに参ります」


 こんな夜更けに何があったのか、疑問に感じてもこの国の王からの呼び出しですから放って置くことはできません。寝間着から簡素な衣装に整えてもらうと侍女の先導でお父様が待つという場所へ案内してもらう事になりました。

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