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閑話 彼女から見る彼ら

「あっ! ここにいたんですね」


 やることもなく静かに瞑想していたアタシの耳に飛び込んできた弾むような声。確認しなくても誰か分かる、ここに住む唯一の人間のお嬢ちゃん。何やら手には荷物を抱えているけど匂いから察するにアレかしら。


「昼食を外で食べようと思いまして。よかったらルージュもいかがですか?」

「あらありがとう。それじゃ一ついただくわ」


 ああ、やっぱり。最近は時々こうしておすそ分けも貰うけど、この子の作るものは精霊でも食べられるようにしてあってありがたいのよね。サンドイッチを一つ手に取って齧ると潰された卵にほのかな塩気がちょうどよい塩梅に味付けされていた。人間の料理は手間暇掛けて作るものが多いけど専門の職人が技巧を凝らしたものより、アタシ達の舌に合わせてくれた簡単な一品のほうがずっと美味しく食べられる。 初めて人間の料理を食べたウン百年前かは、その味の強烈さに悶絶したっけ……

 手にした一切れを何口かに分けて食べながらお嬢ちゃんを観察してみる。闇夜のような黒髪に血色のいい肌、感情を映してころころと変化する青い瞳。全体的に小さくて可愛らしい女の子。こんな子を国の為にと使い捨てようとしたって話だから人間ってのは本当嫌になるわ。


「……もしかしてお口に合いませんでしたか?」


 アタシの視線に気づいたお嬢ちゃんが首を傾げて聞いてくる。この子はちょっとした変化にも何やかやと聞いてくるもんだから、ついつい何でも話しちゃうのよね。


「ううん、お嬢ちゃんが可愛いなって思って」

「え! そんな私なんて……ルージュの方が余程綺麗だと思います……」


 たちまち顔が色づいて目を伏せて、ちょっと褒めてみただけでこれだからその反応が微笑ましくて面白い。……アイツがしょっちゅうちょっかい出す気持ちも理解出来そうな気がする。

 ……そういえばアイツ大抵この子について回ってるけど今はいないのね、珍しい。


「ふふ、ありがと。この姿で長いこと生きてるから男からの褒め言葉は聞き飽きたけど、こんな可愛い子に褒められるのは初めてだから新鮮ね」


 人型の精霊なんて千年の間に一度生まれるかどうかってくらいだし情報を仕入れるのも男相手がやりやすいから、こうして女の子とじっくり話すのはこの子が初めてで新しい感覚に目覚めそうな気がする。

 ……それにこの子からは人間の理屈や理論、感情の変化、他にも色々と学べそうだし本当にアイツが連れてきてくれてよかった。


「ブランもルージュを褒めた事があるのでしょうか……」

「ん? どういうこと?」


 途中までにこにこ笑って話をしてたのにどうしたのかしら? 食べる手も止まってちょっと沈んでるみたいだけど、今の話に落ち込むようなところってあったっけ?そんな疑問を投げかけてみると落ち込んだ表情から怒りが滲み出てきてるんだけど……


「ブランがわたしにはひどいことばかり言うのです」


 それを皮切りに語りだすわ語りだすわ。普段ののんびりおっとりした外見のどこにこれだけの文句を溜め込んでいたのやら。


「わたしが何か失敗する度に『間抜け』だなんて言って馬鹿にするのですよ? この前も針仕事でうっかり手に刺したらわざわざわたしの手を取ってそれですから! 血の匂いが嫌いだからってひどいと思いませんか?」

「あら……」

「最近よく転んだりめまいを起こす事があって、その時もまるでわたしを荷物の様に運んでいくんですから。自分から抱えておいて『前より重くなった』ですよ!?」

「ほうほう」

「今思い出しましたが、それよりもっと前には……」


 ……いつまで続くのかしらこの話。というかアタシが見たり聞いたりしてる以上にアイツはこの子を構いすぎじゃないの。いくら関わっても問題ないとはいえ、本人が気にしてないとはいえアイツ頭おかしくなったんじゃないかしら。

 そんなアタシの心境は無視して勢いづいた話がやっと一息ついたみたい。怒り顔から落ち着いたいつもの表情に戻っていた。


「ブランはいつもわたしのことを『面白い』とか『興味深い』と言いますがたまには普通に褒めてくれてもいいと思います……」


 ああ、なるほど。要は褒めて欲しかったと。でも今の話からすると物凄く可愛がられてるような気がするんだけど。


「大丈夫、それアイツにとっての褒め言葉だから」

「どこがですか」

「今まで他に無関心だった奴にとって心惹かれる程の存在って、相当評価高いと思うけど?」

「心惹かれるだなんて、大袈裟では……」


 ……大袈裟でもないと思うんだけどな。


「それに、お嬢ちゃんの見た目はアイツも可愛いって思ってる筈だから安心するといいわよ」


 これも本当。お嬢ちゃんがちょろちょろと働く姿を時々目で追ってるから。


「別に、ブランにそう思われたい訳では……!」


 あらあら、顔が赤くなってる。本当、反応が可愛らしい子。もう少し愛でていたいけどあんまり独占するとアイツがうるさそう……いずれはと思ってたけど、もう来たのね。


「……お前と一緒か。妙な話などしていないであろうな?」

「あら会った早々失礼ね。むしろアタシの方がアンタの事ばっかり聞かされて大変だったんだけど」

「どうせまともな話ではあるまい」


 お嬢ちゃんが黙っててくれと身振りでこっちに知らせてくるけど思念使えないのって不便ね。ま、別にいいけど。


「とりあえずお嬢ちゃんはアンタに普通に褒められたいみたいだから、こう、もうちょっと言葉考えてあげてね」

「ルージュ!」


 立ち上がりかけたら勢いがつき過ぎていたのか、ふらりと倒れ掛かったお嬢ちゃんをすかさず支えるなんて相当慣れてるのね。


「……これで何度目だ」

「面倒なら放って置いてください」

「咄嗟に手が出るから仕方なかろう」


 ……お迎えも来たことだし、あの子はアイツに任せて帰っちゃおう。またアイツへの文句を聞かされっぱなしになるは流石に勘弁だもの。


「お嬢ちゃんのことは後は任せたから。それじゃあね、あんまり喧嘩しないようにね」


 本気の喧嘩や争いだったら止めるけど、まぁお嬢ちゃんとアイツならそんなことはないし。精々仲良く喧嘩しててくださいなっと。

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