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閑話 魔力の正しくない使い方

「またおかしな事やってやがる……」


 俺は少し離れた場所から感じるあいつの魔力に思わず顔を顰めた。ここ最近あいつはあの人間の小娘の所へ入り浸っては何やらやっているようだ。

 半年程前に突然あいつが人間を連れ込んでここに住ませると聞いた時は正直何考えてるのかと思った。特に関わりの多い俺やあの女ならともかく人間とは千年単位で関わった事のないあいつがどういう風の吹き回しかと。

 人間側の事情については分かったが本音じゃ監視なんて面倒な事せずにさっさと処分したかった。しかし最高位精霊のあいつが決めたんじゃ俺には何も言えねぇ……だから人間に魔力の扱いを教えるのも反対しなかった。

 人間のことだ、どうせ力を得たらそれを好き勝手に振るいだす、そうでなくともここの環境に不満を持って問題を起こす、そうなるに決まってるからその時改めて追放や処分をするつもりだった。

 けどそうならずに小娘はここの暮らしを受け入れやがった。それだけじゃなく「人間らしく生きる為」と変な事ばかり始める小娘に俺は混乱した。

 俺は癒しと守りの精霊だ。人間の歴史の中で権力を手にした者が最後に望むのは不老不死、永遠の命。それを求めて精霊へ懇願する姿ばかりを目にしてきた。時には力の弱い精霊を無理矢理捕らえ不死とまではいかなくとも寿命を延ばそうと試みる事もあって、そういう人間へは俺が対処してきた。人間の一番汚い部分は俺とあの女が担当しあいつには関わらせないようにしてきて、それで上手く回っていた。

 なのに今まで見てきた他の人間との違いに俺が戸惑っている間に小娘はあいつを懐柔していく。ここでの最高位精霊を誑かして力を手にする気か、と警戒してなるべくあいつやあの女と一緒に小娘を見張っていたが気づいたら俺まで巻き込まれてあれこれと人間の生活を教え込まれた。ふざけやがって! 真面目に考えてた俺が間抜けじゃねぇか!

 ……ここまで来るとあの小娘が危険な事をやらかす可能性もほぼ無いと流石に信じられた。

 どうせ残りの寿命からして四、五十年といったところだ。そのくらいの時間なら大した影響もないだろうし目溢ししてやれる。

 それに割と小娘の作った家の居心地は気に入っている。地面に座り木に寄りかかるよりは椅子に座る方がいい。


「何やってるかそろそろ確認しておくか」


 俺はあくまで監視をする為に行くのであって決して興味がある訳じゃない。面倒だけど仕方がないから俺が行かざるを得ない。さて、一体何をやっているんだか。



 俺が小娘の家に入った瞬間、この地の気候にはあり得ないひやりとした冷気に包まれた。これはただの冷気じゃない……魔力によるものだ。それもあいつじゃない、小娘のもの。


「おい、小娘何やってやがる!」


 まさか本性を現しあいつを攻撃してるのか。所詮人間があいつに敵う訳はないが反逆の意思を見せただけで処分対象となるしそもそもあいつが反撃し出したらまずい。とてつもなくまずい。

 焦りつつ声を上げてみたら小娘が間抜けな顔で奥から出てきやがった……手には凍った果実を持って。


「あ、グリスいらっしゃい。今シャーベットを作っているのですがよかったら如何ですか?」

「は?」

「突然やって来て何を声を上げている。お前にしては珍しい」


 小娘が何を言ってるか理解できない内に続いてあいつが出て来た。どう見ても攻撃するしないの雰囲気じゃない。


「……とりあえず座って待っててください。ブラン、行きましょう」


 俺が事態を飲みこめず呆気に取られている間にあいつと小娘が奥へ引っ込んでいった。そしてまた魔力の反応が強くなる。待っている間あいつらの声が聞こえてくるが、聞いてる方が馬鹿らしくなる会話だった。

 それから少しして小娘が器に盛られた何かを持って俺に差し出してきた。薄い色をして冷気を放つそれが半円状に形作られている。同じ物が小娘とあいつの前にもあった。


「どうぞ召し上がってください。わたしが凍らせ、ブランが刻んで作った林檎のシャーベットです」


 ……これは食う物なのか?そういえば最近人間の食い物についてあいつが俺に聞いてきた事があったがまさか人間の物を食っていたのか!?


「ふむ、程よく凍らせてあって口解けがよいし中々の美味だ。魔力の強さの調節も随分慣れてきたようだな」

「ありがとうございます。苦労した甲斐がありました」

「凍らせると同時に刻めばもっと手早くできるが、同時使用はまだ難しいな」

「まだまだ練習あるのみ、ですね」


 「シャーベット」とやらを匙に取って口に運びあれこれと慣れた様子で話し込んでいるやつら。それを見てるだけだった俺が、未だに器に手を着けてないのに気付くと小娘は呑気な間抜け面から表情を変えた。


「これは果物を凍らせて細かく砕いたもので、他に何も入っていません。精霊が口にしても害はありませんから安心してください」


 ……どうやら毒物やらの警戒をしてると思ったらしい。まぁあいつが既に手を着けてるからその心配はしてなかったが誤解されたままなのも鬱陶しいし食っておくか。

 そういえば人間の物を食うのはこれが初めてだな……


「……美味い」


 俺が呟いた言葉はしっかり聞かれていたようだ。小娘が途端に表情を明るく変えた。


「よかった。ブランも気に入ってくれたのでグリスも喜んでくれると思いました」


 そして饒舌に語りだす。シャーベットを作るまでの試行錯誤を。


「ここの気候だと自然に果物が凍るなんてないでしょうから、食べた事がないと思ったんです。最初は凍らせ過ぎて触っただけで砕けたり、逆に芯まで凍らず生のままだったりで安定して最適な凍結を掴むまでが大変でした。その後はそれを削るのですが風の魔力はまだ扱いが不十分でブランに頼ってしまって……いずれ一人で全て賄えるようにはなりたいのですが難しいものですね」

「お前の魔力の使い方は妙なものばかりだが、いい練習になるようだ。ここへ来た当初とは大違いだな」

「だってそうでなければここでとても暮らしていけませんから」


 こいつら、いつもこんな事やってるのか?いつからだ?


「本来他者を攻撃する手段でしかなかった私の魔力にこのような利用方法があったとは、お前の発想には呆れたものだ」

「その『攻撃するだけ』っていうのが間違っているんです。もっと視野を広く持たないと」


 おい、最高位精霊の魔力を人間の為に使うなんざ絶対あってはならない筈なのに何気軽にホイホイ力を貸してやってるんだ。……もう駄目だこいつら、手遅れだ。

 ……小娘の寿命が尽きた後が面倒だな、これは。

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