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学生 トヨシマ・アザミの日常  作者: スマ甘
第1話
8/8

1-8

「......では、実弾装備の2機で、ズーシャルを足止めするということだね」

「はい。 国連軍の部隊が来るまでの約10分。 わた……ボクとハルザで時間を稼ぎます」


 滑走するマルレの中で、アザミはジェイコブと通信を交わす。


「無茶はしません。 危険を感じたら、なりふり構わず離脱します」


 映像通信のウィンドウの向こう側で、ジェイコブは頭を抱えた。

 訓練生の二人だけでズーシャルの群れと戦うのは非常に危険だ。

 ジェイコブが頭を抱えるのは無理もない。


「ズーシャルの撃破は狙わないこと、弾切れしたらすぐに離れるんだ。 いいね?」


 ジェイコブの答えに、アザミは微笑んだ。


「はい。 ありがとうございます」

「気をつけてね」

「了解!」


 アザミは通信を切り、隣で滑走するマルハを見た。


「アザミ。 そろそろズーシャルの群れと会敵するぞ」

「わかってる」


 アザミが一度深呼吸をすると、マルレはアサルトライフルを構えた。

 射撃モードはセミオート。

 アサルトライフルはセミオートで撃つ方が狙いやすいため、アザミはセミオートモードを愛用していた。


「オレは左と前を。 アザミには右と後方を任せたい」

「了解」


 マルハが少し距離を開け、マルレはライフルの安全装置を解除した。


 直後、クモ型のズーシャルが飛び出し、反応したアザミは、ライフルでクモを撃ち落とす。


「気をつけろよアザミ! 敵はクモだけじゃねえぞ!」

「ちゃんと確認してる!」


 マルハは左から来るズーシャルを迎撃していた。


 マルレは前方でマルハを睨むサソリとカマキリに向けて発砲し、挑発する。

 これでボクに注目するはずだ。

 アザミは震える足でペダルを踏み込む。


「ハルザ、サソリとカマキリは倒さないで。 アレがボクらを狙ってくれれば、他の雑魚もこっちに来るだろうから」

「はいよ。 もう撃たなくていいか?」

「うん。 倒すのは、ボクらから目を逸らしたヤツだけで」

「わかった」


 サソリが吐き出す棘を避けながら、アザミ達はズーシャルを誘導する。


 誘導して、海沿いの開けた場所で足止めすれば、鵜原の前線基地から来る部隊がスムーズに攻撃できるはず。

 そうアザミは考えたからだ。


「ハルザ。 なんとか海沿いに誘導するよ」

「鵜原の部隊がすぐ攻撃できるようにするんだろ?」


 ハルザはすでに察していた。


 さすがはエクサ、話が早い。

 アザミがそう思いながらマルレを軽く跳躍させた直後、雑木林の中から触手のようなモノが伸びてきた。


「危なっ!」


 マルレは反転し、ぎりぎりのところで触手を避ける。

 ズムウォルトだったら被弾していただろう。

 アザミはマルレの性能に感謝していた。


「気をつけろ! ズーシャルの新種かもしれない!」

「いまさら新種!?」


 アザミはマルレのレーダーをチェックする。

 レーダーには、カマキリやサソリより大きいズーシャルの反応があった。


「あんなのが皆の所に行ったらマズイよね」

「ああ。 何とかして止めるぞ」


 マルハが加速し、サソリとカマキリを飛び越えた。

 マルレも後を追い、二匹を飛び越える。


「居たぞ。 新種だ」


 冷たいハルザの声が響く。

 アザミは光学映像で新種らしきズーシャルを見た。


 新種は四つの足が生えたイソギンチャク、のような不気味な姿をしていて、体は血のように赤い。

 多数の触手の先端には、見た瞬間ワラスボを連想させるような口があり、それがカチカチと歯を鳴らしていた。


「ベータとか擬態より気持ち悪いね。 アレ」

「そうだな」


 マルハがライフルを構えた瞬間、イソギンチャクから触手が伸び、反応したアザミが触手を撃ち落とした。

 同時に鱗で覆われた胴体も撃つが、弾丸は鱗に弾かれる。

 触手は脆いが、本体はかなり頑丈らしい。


「本体はロケットランチャーでも無いと無理みたい」

「足を狙え。 見る限り筋肉質だから、脆いはずだ」


 アザミはハルザの指示に従い、イソギンチャクの足を狙う。

 撃たれたイソギンチャクの足は、風船が割れるかのように弾け、赤い液体を溢れさせた。

 この新種、見た目が気持ち悪いだけで、大したことはないのかも。

 アザミはイソギンチャクを見つめながら呟く。


「アザミ。 一応離れておけ」

「うん」


 マルハはイソギンチャクから距離を取る。

 すると、イソギンチャクの体が収縮を繰り返し、千切れた触手や、避けた足が新しく生え始めたのだ。


「再生した!?」

「そんなことだろうと思ったよ。 本体を潰さないかぎり、こいつは倒せねぇ」


 本体を狙うには、触手を処理しなければならない。

 だが、カマキリやサソリからの攻撃も続いている。

 それに注意を払いながら、イソギンチャクを攻撃しなければならないのだ。


「めんどくさいなー、もうっ!」


 アザミはマルレの左手にナイフを持たせ、伸びてきた触手を切り落とした。

 しかし、切り落とされた触手はマルレの左腕に噛みつき、だらりと伸びた繊維が地面に潜っていく。


「切り落とした触手を利用した!?」

「アザミ!」


 ハルザは叫ぶが、マルハはカマキリに阻まれ、マルレの所に来れない。

 イソギンチャクから伸びた触手たちは、マルレのコックピットを狙っていた。


「大丈夫!」


 アザミはマルレのスラスターを全開にして、左腕装甲をパージした。

 同時にマルレは跳び、伸びてきた触手を避けた。

 それでも、即座に両肩アーマーへ狙いを変えた触手が、噛みついている。


「しつこいやつ!」


 見下ろせば、本体は狙える。

 アザミは、マルレの持つライフルの銃身下に装着された、200mmグレネードランチャーを起動させた。

 そして、両肩アーマーをパージしながらライフルを向ける。

 狙いはイソギンチャクの本体中央。

 普通のイソギンチャクで言うなら、口が存在する部分だ。


 その部位にグレネードを撃ち込むと、イソギンチャクの本体は大きな口を開けて、マルレが放ったグレネードの弾を飲み込んだ。


 バカじゃないの? 自分から死ぬ気?


 アザミが心の中で呟いていると、グレネードを飲み込んだイソギンチャクの上半分が弾け、赤い体液を散らした。

 だが、砕けたイソギンチャクの体は、びくびくと地面を這いずり回り、元通りに再生していく。


「ハルザ......このイソギンチャクは......まさか」

「全身がコアか......厄介だな」


 ズーシャルには、全身の神経系が一箇所に集まった『コア』と呼ばれる部位がある。

 通常、ズーシャルはコアを破壊することで即死させられるが、全身がコアというズーシャルの記録は存在しない。


「全身を一気に......火葬場並の火力で破壊するしかない?」

「だな。 でも、オレ達の武装じゃ仕留められない」


 そんなことはわかってる。

 アザミはこの場から離れたかった。


 手強いカマキリとサソリ以外に、新種であるイソギンチャクを相手にしたせいで、推進剤の残量が心もとない。

 集中し過ぎたせいで、疲れも溜まっていた。


「ハルザ! 後ろ!」


 マルハの後ろに、カマキリが居る。

 ハルザも疲労していて気づかなかったのだ。

 だから、隠れた一匹のカマキリに注意が向かなかった。

 あの鋭い鎌でうなられれば、ひとたまりもないだろう。


 もう間に合わない。

 と、アザミが目を背けた瞬間。


 鎌を振り上げていたカマキリの体が弾けてバラバラになり、周辺に隠れていたクモやサソリも、上空からの攻撃で粉砕された。


『訓練生二人! 大丈夫か!』


 はっきりとした男の声。

 目の前に着地するインディペンデンスが6機。

 鵜原の部隊が運用している機体だった。


「無事です。 自分の機体は、左腕装甲と両肩アーマーをパージしましたが、損傷はありません」


 アザミは安堵していたが、周囲への警戒は怠らない。


「こちらも損傷はなし。 ただ、推進剤の残量が気になる」


 ハルザが答えている間、インディペンデンスたちは、イソギンチャクを攻撃しながら2機の前に降り立つ。


『でも良かった。 君たちが無事ならなによりだ』


 頼もしい男性パイロットの声を聞いて、アザミは頬を緩ませる。


「ありがとうございます。 あと、そこのイソギンチャクは全身がコアの新種です。 武器である触手は、切り離されても短時間なら動くので注意を」

『わかった。 とりあえず、君たちは演習場に戻って補給を受けてくれ。 イソギンチャクの相手は俺達がする』

「了解。 気をつけて」


 アザミは答え、マルレはマルハのマニピュレーターを掴んで滑走を始める。


「演習場で補給をしたら、あとはどうすればいいんだろ?」


 考えてもわからない。

 わからないなら、ハルザに考えてもらう。


「万一に備えて待機する。 つまり、少しは休めるってことだ。 ......アザミも疲れてるんだろ?」


 ハルザは辛そうなアザミを気遣った。

 好きな人に無理はさせられない。


「少しだけね。 だって、初陣の相手が新種だとは思わなかったんだもん」

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