お金がない!の巻
とそんなこんなで始まった逃亡生活ではあるが
開始早々に肝心の旅費の方は持たなかった。
いざという時の為財産として当てにしていた
令嬢シャルロットの持ち寄った宝飾品の数々が
ガラクタ同然のおもちゃだったからである。
「綺麗だけど、こりゃ、ただのガラス玉だな」
痛恨のミス。
その品々を売りさばこうと宝飾品屋に早々持ち寄ってはみたものの
その結果は散々たるものであった事はもはや言うまでもない。
「シャルロット様。紫水晶があしらわれた鳩のブローチは、どうされたのです」
「ブローチはお洋服が傷むから、わたくしあまり、身に着けないようにしていますの」
頭が痛くなってきた。
「それに、本物で出来たアクセサリーは身に付けると重たいですもの・・・。
旅行に行くなら軽い模造品で、十分ですわ」
こんな馬鹿に頼むのではなかったと従者はその内心ひどく後悔した。
ある程度距離を離れて移動したはいいが
最悪辻馬車を売ってでも生活費を工面する事を考えなければならない。
自分一人ならまだいいが世間知らずで一人生きる術を知らない
『足手まとい』の彼女(言うまでもなく、シャルロットの事である)を
抱えこれからどう生活すればいいものだろうか。
宿に泊まるのも憚れる困窮したこの状況。
しかし夜分遅く辻馬車を路中に泊めているとすれば
盗賊に襲われるはよもや間違いないだろう。
せめて近くの宿の主人にでも頼み込み
その傍に辻馬車を停めさせて貰い
辻馬車の車内で休むかどうか迷っている最中に
そやつらは現れた。
噂をすれば影。そう盗賊の一味である。