第6話 「めでたし」
「~♪」
「ん。鼻歌なんて珍しいね。……内容がスパロボっていうのは、女子高生としてどうかとは思うけど」
「人の鼻歌にケチをつけるなんて、酷い人ね」
「あ、ごめん。別にそんなつもりじゃ――」
「どうせ、フーフー吹くのならこの俺の為にファンファーレでも吹いた方が良いのに、とか考えていたんでしょう?」
「――いや、本当にそんなつもりは無いよ」
「そんな酷い人には、私の空手を見せてやるわ」
「まさかの持ちキャラがそれか。……でも、本当に機嫌が良いみたいだね。何かあったのかい?」
「あら? アロハのおっさんみたいなことを言う人ね」
「茶化すんじゃなくて質問に答えて欲しいな。……僕も言った後で思ったけどさ」
「ふふふ。それじゃあ、教えてあげるわ。――コレよ!!」
「……ん? ああ、また随分と懐かしい本たちを」
「ふふふ。実は昨日、部屋の本棚を掃除して、久し振りに並び替えをしたのだけど、そうしたら懐かしい本がぽろぽろと出てきたのよ」
「へぇ」
「私は思ったわ。ああ。これが本当の、おもひでぽろぽろ、なんだって」
「うん。それは違うけどね」
「まぁまぁ、そんなわけでね。懐かしい本を読み返してるとなんだか楽しくなっちゃって」
「成る程。そういうことだったのかい」
「ちなみに私としては全部お薦めなのだけれど、貴方はこの中で読んでない本はあるかしら?」
「んー……。いや、この中の本なら、全部読んだことはあるかな」
「……えっ?」
「あぁ、でも本当に全部が全部、懐かしいなぁ」
「……」
「しかも、ラインナップが渋いね。まさか『ジャストボイルド』『地球儀』『パンツァーポリス』がこんな所で見られるなんて思わなかったよ。君って意外とSFが好きなのかい?」
「……なんでよ」
「ん? なんだい? ……あれ、どうして僕を睨んでいるのかな?」
「……なんで、全部知ってるのよーっ!!」
「うおおっ!? なんだ、なんだ!? いててっ! ちょっと痛いから、栞でペシペシ叩くのは止めてくれっ!!」
「どうせ王道は知っているだろうと思って、悩みながらも泣く泣く『汚い面』とか『二種雑種』とか『魔術師・頭脳』とかは家に置いてきたっていうのにっ!!」
「理不尽な暴力は止めるんだ!! 後、なんでわざわざ和訳するんだい!?」
「はぁ……。あんまりだわ。これじゃあ私は、何のためにこれらの本を持ってきたのかしら」
「溜息は良いから、叩くのを止めろ!!」
「……成る程。それじゃあ、君は僕に薦める為に、これらの本を持ってきてくれたんだね?」
「……そうよ。無駄になってしまったのだけれどね」
「どうして僕は睨まれてるんだろうねぇ」
「……はぁ。もうテンションが下がったわ。今ならストレスで閉鎖空間が作れそうよ」
「そんな露骨に憂鬱そうな顔をしなくても……ほら、お互い読んでいるなら感想を話し合うとか出来るじゃないか」
「……はぁ。いきなり、なに話しかけてきてるわけ? ただの人間には興味ないんだが? 話しかけるなら、宇宙人か未来人か超能力者か異世界人になってから、という名言を知らないのかよ?」
「おい、混ざってる、混ざってる。黄金の鉄の塊はそんなこと言わない」
「……というか、思ったのだけれど」
「うん?」
「よくよく考えたら、そもそも。私が貴方に振ったネタで通じなかったものが無いのよね」
「そう……なのかな?」
「何だか悔しいわ」
「うーん。僕としてはそこに悔しさを感じなくても良いと思うんだけどね」
「……なんだかんだと聞かれたら?」
「答えてあげるが世の情け」
「夜空の星が輝く影で」
「悪の笑いが木霊する」
「ねだるな、勝ち取れ」
「さすれば与えられん」
「引けば老いるぞ」
「臆せば死ぬぞ」
「神に祈るな。心くじける」
「過去を思うな。敵は前にあり」
「……くっ。やるわね」
「……僕としては、君の女子高生らしからぬネタのチョイスに、戸惑いを禁じえないよ」
「でも、まだよ!! 私の《王の財宝》はこんなものでは無いわ」
「ノリノリだね。絶対、楽しくなってきてるだろう、君」
「さぁ、第二ラウンド行くわよ!! 武器の貯蔵は十分かしら!?」
「……まぁ、君が楽しそうなら良いんだけどさ」
「ハッピーうれピー?」
「よろピくねー」
「パ・ピ・ヨ・ン」
「もっと愛を込めて」
「げろしゃぶかフーミンなら?」
「フーミンが良いなぁ!」
「カミーユってどう思う?」
「女みたいな名前だよね」
「足りない分は」
「勇気で補う」
「人魚と書いて?」
「任侠とよむきん」
「暴力を振るって良い相手は?」
「化け物どもと異教徒だけです」
「俺たちは学校を愛しているか!? ラグビー部を愛しているかー!?」
「ガンホー!! ガンホー!!」
「――っ!!」
「――っ!!」
「はぁ……はぁ……。――あら? もうこんな時間ね」
「ふぅ……ふぅ……。――ん? うわっ。本当だ。もう月が見えてきてるじゃないか」
「……帰りましょうか。少し夢中になり過ぎたわね」
「そうだね。でも、こんなになるまで気づかないなんて、後半は僕も必至だったな」
「むぅ。それでも、最後までネタを当てられたことが心残りだわ」
「睨まないで欲しいね。ホラ、不貞腐れてないで、行くよ」
「……ねぇ。最後に一つだけ良いかしら?」
「ん? なんだい?」
「……今日は『月が綺麗』よね」
「……へ?」
「……聞こえなかったというのは無しよ。『月が綺麗』だと言ったのだけれど、貴方はどう思うのかしら?」
「……それ……は」
「……念のために一応、言っておくけれど、これは『和訳』よ」
「……」
「……返事は貰えないのかしら?」
「……どうして、僕なんだい? 今日も話して分かったと思うけれど、僕は言ってみれば『オタク』と呼ばれる側の人間だ。客観的に見て、惹かれる要素は無いと思うんだけど」
「イヤミか、貴様ッッ!!」
「いたっ!? なんでまた叩くんだい!?」
「それを言ったら、貴方だって私が『オタク』だということは十分に分かっているでしょう!!」
「いや、君はほら……可愛いから大丈夫だよ」
「――!?」
「いっったっ!? だからなんで、叩くんだい!? 褒めたのに!?」
「照れ隠しよ!?」
「普通、照れ隠しに鞭打はしないよ!?」
「うるさいわねっ!! ああっ!! もうっ!! 結局、返事は何なのよ!?」
「うおっ!? だから君は構えを取るんじゃない」
「誤魔化すんじゃないわ。……これ以上、答えを引っ張るなら、まっすぐ行って右ストレートでぶっ飛ばすわよ」
「本当に君の解決方法はいつも物理だねっ!? まったく……でも、そんな君が好きだよ」
「……今、なんて言ったのかしら?」
「君も聞き返しは無しだよ。……僕だって言うのは恥ずかしいんだから」
「……好きって言った?」
「……言ったね」
「……本当に?」
「……本当に」
「……」
「……ちょっと、何も言わずにそっぽを向かないでくれよ。何か気に障ったのかい?」
「……今はこっちを見ないで頂戴。見せれる顔じゃ無いわ」
「……そうかい」
「……ええ」
「……」
「――っ!? なっ、なにをっ!?」
「……右手がお留守……だったから」
「……ふふっ」
「なんだよ。笑うなんて酷いじゃないか」
「いや、ごめんなさい。嬉しかったのよ。……貴方の顔も凄く真っ赤だから」
「うぅ。これは確かに見られたくないね」
「良いじゃない。二人して真っ赤だなんて、まるでサンホラよ」
「それバッドエンドじゃないか」
「貴方が一緒なら……もう何も怖くないわ」
「それもバッドエンドだ」
「○月○日 ――が私と結ばれる」
「君が日記所有者だとは思わなかったな」
「ふふっ!」
「ん。どうしたんだい? その……強く握ったりなんかして。今、多分、手汗が酷いから、もし嫌なら」
「大丈夫よ、何の問題も無いわ。ただ――」
「――やっぱり、貴方で良かったと思っただけよ」
お読み頂きありがとうございましたーっ!
実は、これにて本作は最終回となります。
第六話という短い話ではありましたが、読者の皆様にクスリとでも笑って頂けたのなら、これに勝る喜びはありません。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございましたーっ!!