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第五話 「おすすめ」

「……はぁ」

「どうしたんだい? 珍しく溜息なんかついたりして」

「私には溜息をつく権利すら与えられていないのかしら」

「いや、そんなことは言ってないよ。まぁ、出来るだけつかない方が良いかもしれないけどね。幸せが逃げるって言うし」

「溜息をついている人から逃げるような、薄情な奴に興味は無いわ」

「……無駄に漢気溢れる回答だね。見直したよ」

「あら、ありがとう」

「……で、なんでまた、そんなに憂鬱そうなんだい?」

「命題を突き付けられたからよ」

「命題?」

「ええ。……今日、クラスメイトに聞かれたのよ。『一番おすすめの本』を教えて欲しいって」

「ふーん。それがそこまで悩むことなのかい?」

「なん……ですって……」

「いや、ごめん。……そんな死神みたいな驚きをしなくても良いじゃないか」

「いや、実際問題、魂が尸魂界ソウルソサエティに行きかける程の衝撃よ。どうして貴方は、この『命題』を前にして、そんなに平然として居られるのかしら?」

「大げさだなぁ」

「それじゃあ、答えてみなさいな。……貴方にとって『一番おすすめの本』って何かしら?」

「『うしとら』」

「……」

「……なんだよ。そんなに絶句しなくても良いじゃないか。実際、名作だぞ」

「……あ、ごめんなさい。少し驚いたのよ。まさかノータイムで答えが来るなんて思っていなかったから……ちょっと見直したわ」

「そうかい? ううん。なんだかちょっと照れるな」

「ええ。負け犬から、馬の骨へ昇格させてあげる」

「まともに喜んだ僕が馬鹿だったよ」

「……でも即答にも驚いたのだけれど、作品の選択も予想外だったわ。言えたとしても、てっきり『奇妙な冒険』あたりだと思っていたし」

「勿論、それだって大好きだけどね。……小さい頃に読んだからか、僕の中では『うしとら』は特別なんだよ」

「成る程ねぇ。……因みに、一番好きなシーンはどこかしら?」

「『わるかったなあ。つらかったろうなあ』」

「なっなんですってーっ!?」

「……そんなミステリー調査班みたいに驚かなくても良いじゃないか」

「いや、今回のは本当にそれくらいの衝撃よ……? 危うく魂魄が封神台へ飛びかけたわ」

「そこまでか」

「え? っていうか、本当に『一番』がそこなのかしら? 『ああ……なんだ……風が……やんだじゃねえか……』でも、『今……帰ったよ……あけとくれ……』でも、『もう……喰ったさ。』でもなく?」

「君も大概、読み込んでるな。……当時、僕の好きだった『回るジャングルジム』が安全面への配慮から『固定』されてね。話の重さは全く違うけれど、凄く共感出来たんだよ」

「……そうだったのね」

「そうなのさ。……で、どうやら君の反応からすると、『一番おすすめの本』を決めきれないってことかな?」

「……ええ。そうよ。笑いたければ笑うが良いわ」

「別に笑いはしないけど……意外だな」

「何がかしら?」

「いやだって、君は僕以上に本を読んでいるイメージがあるし、『一番好きな本』くらいあると思ったんだけど……『うしとら』にしたって結構読み込んでいるみたいだし」

「……そりゃ『好きな本』ならあるわよ。『北斗』『グラップラー』『ウーランツァール』……etc.etc」

「君が漢気に溢れてる理由が垣間見えたな。でも、それなら――」

「――ただ、今回聞かれているのは、『一番』なのよ? 私なんかが『名作』に順位付けをするなんて、恐れ多いと思わないかしら?」

「……ああ。そういうことかい。うーん。別に、好みの問題なんだから、そこまで深く考えなくても良いんじゃないかな」

「簡単に言うわね。――それじゃあ、貴方は『セクシーコマンド―』と『笛部』。どちらが面白いか答えられるのかしら?」

「それは……無理だけどさ」

「無理じゃないの」

「いや、それは題材が卑怯だろ。片方が好きなら高確率で、もう片方も好きな奴じゃないか」

「それじゃあ、『寄生する獣』と『最終兵器かのじょ』は、どちらが道徳の教科書に相応しいと思う?」

「……いや、これも無理だよ。強いて言うなら、道徳の教科書に乗せるにはどっちも影響が大きすぎるな」

「まぁ、さすがに言い過ぎたけれど……私の気分的にはそんな気持ちなのよ」

「成る程ねぇ。……それなら確かに『命題』かな」

「……はぁ。困ったわ。明日には教えると約束してしまったし」

「うーん。……じゃあさ。せめて『ジャンル』で縛るのはどうかな?」

「……どういうことかしら?」

「いや、全ての作品から『おすすめ』ってなると、確かに少し難しいかもしれないけどさ。そのクラスメイトの子が『好みのジャンル』であれば、ある程度は絞れるんじゃないかなって思ってね」

「……例えば?」

「僕なら、星進一が好きな子には『キノ』を。宮崎駿が好きな子には『飛空士』を薦める……かな。今、上げたのだとラノベになっちゃうけどね」

「……成る程」

「あー。でも、明日渡すんだよね? 今からだと、好みは聞けないか」

「いえ。あの子の好みなら知ってるわ。……そうねぇ。その理論で行くのなら、『バッテリー』でも渡そうかしら」

「お。野球が好きなのかい?」

「『腐ってやがる(行間を読むのが)……早すぎたんだ(得意な子)……』と言えば、分かるかしら?」

「……分かりたくなかったなぁ」

「よし。渡す本も決まったことだし――帰りましょうか」

「本当にそれでいくのか」

「ほら。急がないと、外食をする時間が無くなるわ」

「今日も何か食べるのかい? ……言っとくけど、今日は奢らないからね?」

「ドリンクバーだけでも良いわよ? 私。ちょっと話過ぎて喉が渇いたわ」

「君はそこで渇いていけ。僕は帰る」

「ふふふっ。冗談よ。今日は私が奢るから行きましょう」

「……はぁ、まったく。君には敵わないね」

「あら、辛気臭いわね。溜息をつくと幸せが逃げるわよ?」

「……本当に敵わないな」


お読み頂きありがとうございますーっ!!

……優劣を決める訳ではありませんが、『一番好きな作品』ってありますよね。

もし『うしとら』を読まれた事のない読者様がいらっしゃいましたら、是非是非一度お読み下さいませ。

長いのはちょっとという方は、同作者の『邪眼』をお薦め致します。


続きはまた来週、投稿します。


いつもありがとうございますーっ!!


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