第四話 「外食」
「……ねぇ」
「何かな?」
「生きてるって何かしら? テリー」
「また、懐かしいネタを……。一応、言っておくと僕はテリーじゃないからね?」
「あら、違ったかしら?」
「その返しは結構ショックだな。君とは割と長く付き合ってきたつもりだったんだけど」
「でも、貴方。小さい頃にモンスターが迎えに来たって言ってなかったかしら?」
「捏造してまで、ボケを重ねてくるのは止めて欲しいな。残念ながら、僕にワンダーランドに行った記憶は無いよ」
「残念ではあるのね」
「モンスターマスターに憧れない男子はいないさ」
「そんな貴方に朗報です。……目の前の女子高生が起き上がり、仲間に成りたそうにこちらを見ています。仲間にしますか?」
「一つ聞きたいんだけど、その理論で言うのなら君はモンスターということになるんだけど、それで良いのかい?」
「あら、知らなかったのかしら。女の子は、ある種の神話生物なのよ」
「知りたくなかったな。そんな冒涜的な現実は」
「考えてもみなさい。『お砂糖、スパイス、素敵なモノいっぱい』なんていう、曖昧なもので構成された存在がまともな訳が無いでしょう」
「いや、その理論はおかしい」
「……ちょっと、そんなに冷めた目で見ないでくれるかしら? 恥ずかしくなってきちゃうから」
「ああ、良かった。君にもまだそんな感情が残っていたんだね」
「当たり前じゃない。貴方は私のことを『パープルヘイズ』だとでも思っていたのかしら」
「小説にまで手を出すほど、ハマるのは予想外だったな。でも、そのボケは分かりにくいと思うよ」
「全く。失礼しちゃうわ」
「どうして僕が責められているんだろうね。……でも、どうして生きてる理由なんていう命題を聞いてきたんだい?」
「あら、そう言えば最初はそんな話だったわね」
「人に振った話を忘れるんじゃない」
「まぁ、理由は簡単よ。私たちはいつも、放課後はここで図書委員をやっているじゃない?」
「うん。そうだね」
「余りにも変化なく繰り返された日常で、私はもう生きてるっていう気がしないのよ。テリー」
「ネタを繰り返すな。そして思った以上にしょうもない理由だったな」
「そうは言うけど、あーた」
「誰があーただ」
「毎日、毎日、年頃の女子高生がこんな図書室で青春を消化しているなんて……。これは、もはや事件よ?」
「大げさだよ」
「でも、本当の話。このままでは、私のバラの高校生活が寂しいものとして終わってしまうわ」
「うーん。そこまで自分を追い詰めなくても良いと思うんだけどなぁ」
「いや、仮に私が絵日記をつけていたとしたら、その内の実に半分以上が『きょうはなんにもないすばらしい一日だった』という内容になるのよ?」
「……確かにそれは事件だな」
「やっと貴方の賛同が得られたようで、嬉しいわ」
「そうかい。……でも、そうなると難しい話だね」
「ん? 何がかしら?」
「いや、少なくともこの委員の仕事は『学期』が変わるまでは、続けないといけないんだし、君の放課後を有意義なモノにしたくても、この『一学期』中は難しいんじゃないかと思ってさ」
「ああ。そういう事」
「どうしたら良いんだろうねぇ」
「……」
「……」
「……割と一生懸命、考えてくれるのね」
「ん? まぁ、僕の唯一の女友達が困っているんだし、これくらいはね」
「……ふーん。『友達』ねぇ……。『唯一』って所が一応の救いかしら」
「ん? 何か言ったかい?」
「貴方ってホモじゃないわよね?」
「いきなり失礼極まりない発言をするね!? 君は!!」
「あら、急に声を荒げる所が怪しいわ」
「取り消すんだ。君が思っている以上に、思春期の心はデリケートなんだぞ」
「……真面目に怒ってるわね。ごめんなさい。謝るわ」
「全く。……人が一生懸命、力になろうとしているっていうのに君って奴は」
「ごめんなさい」
「えっ!? ちょ!? ……急に泣かないでくれよ。僕の方も言い過ぎたよ。ごめん」
「どうやら女に免疫が無いのは、本当みたいね」
「――っ!? まさか、噓泣きだったのかい!?」
「失礼な人ね。目が乾いたから、少し目薬を差しただけよ」
「タイミングゥ!!」
「さて、面白い顔をしている所悪いのだけど、少し私の話を聞いて頂戴。貴方のお陰で良いことを思いついたわ」
「この顔は生まれつきだ。……なんだい?」
「提案よ。私の放課後を今以上に有意義にしつつ、貴方にしっかりと謝るために、今日は何かご飯を食べて帰りましょう?」
「……いや、悪いよ。これくらいのことで、女子にご飯を奢らせる趣味は僕には無い」
「それなら、貴方の奢りでも良いわよ? 私」
「君に謝るつもりはあるのかい!?」
「そうと決まれば、そろそろ行きましょうか。時間も良い頃合なのだし」
「まて、まだ話は終わってないぞ」
「ちゃんと聞いてあげるわよ。――続きはファミレスでね」
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続きはまた来週、投稿させて頂きます!!
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