第三話 「帰宅」
「……」
「……」
「……ねぇ」
「……なんだい」
「果たして、私たちは必要とされているのかしら」
「言いたいことは分かるけれど、言い過ぎな嫌いがあるね」
「だって誰も来ないじゃない。この図書室」
「まぁ、生徒の利用が一番多いのはお昼時間だからね」
「ここに残って本を読むくらいなら、借りて帰って家で読むわよね」
「うん」
「……はぁ、せっかく貴方が久しぶりに遅刻無しで来たというのに、押し付ける仕事が無いなんて」
「二日も続けて遅れた僕に文句を言う資格は無いんだろうけど、君はもう少し言葉を、オブラートに包んだ方が良いね」
「押しつける~仕事が~ないなんて~」
「誰もビブラートに包めとは言ってない」
「細かいことを気にする人ね」
「大きな違いだと思うのは、僕だけじゃない筈だ」
「まぁ、そんな事はどうでもいいわ。重要なことじゃないから。……問題は私が暇だと言うその一点ね」
「霧が出て来たな。……でもそれなら、今日こそ本を読んだら良いじゃないか。今なら僕だって邪魔はしないよ?」
「……それだから、読む意味が無いんじゃない」
「ん? 何か言ったかい?」
「今日は本を読む気分じゃないと言ったのよ。という訳で、何かお話をしましょう」
「珍しいね。もう五部は良いのかい?」
「ええ。ちゃんとシェルターに入れて保管してきたわ」
「……もう七部まで読んだのか。相変わらず凄い速さだね」
「また世界を縮めてしまったわ……」
「君がロストグラウンド出身だとは知らなかったね」
「あら、貴方も知ってたのね。あのアニメ」
「まぁね。個人的には忘れられない名作だったと思っているよ」
「気が合うわね。私としても、『太いんだよ? 固いんだよ? 暴れっぱなしなんだよ?』と言いながら、黒光りする自前の獲物を見せつけてきた、立浪のジョージさんは忘れられないわ」
「僕の感想に同調しながら、最低な感想を垂れ流してくるんじゃない」
「僕の大事なタマをぉぉぉぉぉ!!」
「分かったから、止めろ!!」
「貴方って本当に、良い反応をするわね」
「君は良い性格をしているよ」
「あら、有難う」
「性格が良いとは言ってない」
「日本語って難しいわね」
「そうだね」
「ところで、思い出したついでに聞きたいのだけれど」
「うん? なにかな?」
「その作品然り、私が昨日まで読んでいた『奇妙な冒険』然り。超能力と呼べるような不思議な能力が出てくるわよね」
「そうだね」
「私はそういう作品が結構好きなのだけれど、貴方もそう言った『能力』に憧れたりするのかしら?」
「憧れはやっぱりあるよ。『中二病』っていう区分に成るのかもしれないけど、そういう能力は見ていて格好いいしね」
「それじゃ、ここからはもしもの話だけれど、そんな『不思議な力』がふと手に入ったのなら、貴方はどう使うのかしら?」
「うん? ……うーん。そう言われると、難しいな」
「余り難しく考えなくても良いのよ? ほら、新世界の神に成りたいとかでも良いのだし」
「少なくとも、その願いは僕の手には余るかな。人を殺す覚悟までは流石に持てないよ」
「それじゃあ、目の前の女子高生に手を出すとか」
「君の中で、僕はどれだけ野性的なんだい?」
「ワイルドでしょう?」
「やかましいわ」
「そうは言っても男子の脳内なんて、ピンク色の妄想ばかりじゃない」
「酷い言いがかりだ。情報源も無しにそういう事を言うんじゃないよ」
「失礼ね。情報源ならあるわよ」
「……なんだい?」
「脳内メーカー 『男子』」
「それを言いがかりと言うんだよ!!」
「そんな事を言って、どうせ力を手に入れたら乱暴するんでしょ? エロ同人みたいに」
「女の子がそういう事を言うんじゃありません」
「それじゃあ結局、貴方は何をするのかしら?」
「……うぅん。やっぱり、パッとは思い浮かばないな」
「ふぅ。リズムの悪い人ねぇ。もっとサクサクって答えていかないと、会話っていうのは生き物なのよ?」
「そんなに言うなら、お手本を見せて貰いたいな。君ならそういう『不思議な力』が手に入ったらどうするんだい?」
「私ならもう少し『放課後を長く』するわ」
「……? どういうことだい? 暇な時間を長くしても仕方が無いだろう?」
「前にも言ったけれど、聞くばかりじゃなくて、自分で考えることが大事なのよ?」
「うーん? ……あ、もうこんな時間じゃないか」
「チッ……よくぞ、気づいたわね」
「なんて露骨な舌打ちを……僕の帰宅を遅らせて君に何のメリットがあるんだい?」
「何かしらね。それも合わせて、考えてみて欲しいわ」
「? まぁ、良いか。ほら帰るよ」
「ええ、分かったわ。……やっぱり、放課後は短いわね」
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続きはまた来週投稿させて頂きますので、お読み頂ければ幸いです。