第二話 「遅刻」
「……」
「――っ遅れてごめん!! ……って、やっぱりね。君はそうだと思ったよ」
「あら? 来たのね」
「言いたいことは色々あるんだけど……まずは、遅くなってごめんね。ちょっと、職員室に呼ばれてさ」
「あらあら。まったく困った人ね。アレほど駄目絶対だって口酸っぱく教えたのに」
「……一応、言っておくけど、僕は別に薬物で呼び出された訳じゃないからね?」
「アレほど、駄目だっちゃって、甘酸っぱく教えたのに」
「そして、僕は君のダーリンでもない」
「あら、そうだったかしら」
「君は割と、勢いだけで話すよね」
「で、薬物じゃないなら、一体何で呼び出しをされたのかしら?」
「んー。まぁ、色々だよ」
「言えないようなことなのね。……まぁ、多感な時期ですものね」
「おい、待て。何を想像した」
「私の口から、何を言わせる気かしら。この変態!!」
「一体君は何を想像したんだ、この変態!! ……呼び出されたのは、テストの点が悪かったからだよ」
「あら、そうなの? なんだ、つまらない」
「人の悩みをバッサリ切るなよ!!」
「というか、その理由なら、100%貴方が悪いじゃない。そんな、理由で遅れるなんて」
「ぐぅ、返す言葉も無い」
「まぁ、私は寛大だから許してあげるわ。さぁ、遅れた分、キリキリ働きなさい。今日も大量の本が貴方の仕分けを待ってるわ」
「分かったよ。……ところで、僕は、君が何をしているのか聞きたいのだけど」
「貴方は最近そればかりね。答えを求めるのでは無く、自分で考えることが大事なのよ?」
「僕としては、言い訳を聞いて上げようと思ったんだけどね。どうやら、余計なお世話だったみたいだ」
「――っ!?」
「だから、なんで君は被害者面が出来るんだい?」
「前にも言ったけど、読みかけの本を取るなんて、人間性を疑われる行為よ? 目の前で、祖父の体から血を抜かれた気分だわ」
「続きを読んでくれたみたいで嬉しいよ。……僕の方も、前にも言ったと思うけど、仕事をしてから読むのなら、僕だって邪魔はしないんだけどね」
「私はただ、静かに暮らしたいだけなのに」
「思った以上に読むのが早いな」
「口を開けば、仕事、仕事。貴方は仕事と読書、どっちが大切なのかしら?」
「仕事だよ」
「酷いっ!! 私は遊びだったのね!!」
「君は選択肢に居なかったじゃないか!?」
「あら、そうだったかしら」
「本当に頼むから、勢いだけで喋らないでくれ」
「じゃあ、やり直すわ」
「いや良いから、仕事しろよ」
「ここに、三つの選択肢があるじゃろ?」
「また懐かしいネタを……『読書』『仕事』『君』かな?」
「その中から一つ、好きなものを選ぶのじゃ」
「それじゃ、僕は『仕事』を選ぶよ」
「それじゃあ、私は『読書』を選ぶわ」
「おい、こら。ドヤ顔で流れるように、読書に移行するんじゃない」
「なによ。『私』を選ばなかったという事は、手伝いは必要ないってことでしょう?」
「うわっ、そういう解釈はズルいぞ」
「ふふふっ。それなら、もう一度聞いてあげるわ。『仕事』と『私』どっちを選ぶのかしら?」
「ぐぬぬっ……!!」
「ふふふっ。」
「なんだい、やけに上機嫌だね?」
「ええ。だって選ばれたのは私だったんですから」
「お茶みたいな奴だな。……さて、それじゃあ、昨日の続きをしようか」
「そうね。それじゃあ昨日と同じように、私がライトノベル、貴方が漫画担当で、本の仕分けをしていくということで良いかしら?」
「それで、構わないけど。昨日は漫画をやりたがったのに、今日はやけに素直だね」
「なんの事かしら? 私の記憶には何も無いわ」
「……なんか怪しいな。うん。今日は僕がラノベをやろう」
「――っ!?」
「なんだい、その顔は?」
「アイエェェっ!? マンガっ!? マンガナンデっ!?」
「よりにもよって、それを読んでたのか」
「うぅ。今までに読んだことのない作風だったから、気になっていたのに」
「君の読むものを選ばないスタイルには脱帽だよ。さて、いい加減仕事をするよ」
「分かったわよ」
「ふぅ。終わったね」
「まぁ、この私が本気になれば、ざっとこんなものよね」
「なんで、今まで本気にならなかったんだい?」
「私は本気になっちゃいけない人間なのよ。本気になれば、なんでもできちゃうもの」
「……なんだか風が吹いてきたな。君、仕分け中に漫画を読んでいたんじゃないだろうな?」
「何の話か分からないわ。貴方の疑り深さには、流石の私もまいっちんぐよ」
「うん。もう、隠す気も無いよね」
「まぁまぁ、無事に作業は終わったし良いじゃない。さぁ、さっき取り上げた本を返しなさい」
「まったく、君は。……ほら」
「ふふふ。これでようやく、ボスの正体が分かるわ」
「でも、今日はもう遅いし、続きは帰ってからにしてくれ」
「あら、本当。もうこんな時間だなんて。まったく、全然、これっぽちも気が付かなかったわ」
「なんて、白々しい言葉なんだろうね。まぁ良いさ。ほら帰るよ」
「当然のように駅まで送ってくれる貴方が好きよ」
「ななっ何を言っているんだい!? これは、最近物騒だから――」
「でも、キリンさんの方がもっと好きだわ」
「――僕の気持ちを裏切ったなっ!?」
「ふふふっ。さぁ、帰りましょう。私は、速く続きを読みたいのよ」
「また、凄い量を持って帰るね。ゆっくりと読めば良いのに」
「……だって、貴方のおすすめですもの」
「ん? 何か言ったかい?」
「別に何も言ってないわ。――さぁ帰るわよ」
「はいはい」
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