表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オートラン  作者: たくみ
アサミヤ=ジロウ編
7/36

#7 「賃貸住宅」

 人や物に対して先入観を持つというのは、人間にとってはありふれたものだ。

 それによって生じるレッテル張りの影響力は、当人さえ意図しない程に大きく膨れ上がり、時に真実さえ捻じ曲げてしまうこともある。

 例えば、”日雇い労働者”という自身の職業と”格安の賃貸住宅”という自らの住家の条件が揃った時、周囲からはあまり良い印象で受け入れられないだろうというのが、ジロウの個人的な感想であった。

 例を挙げるならば、賃貸の大家から振られる話題のどこかに必ずと言って良い程、遠回しな金銭関係への心配と思われる話が出てくる辺りである。

 出来高によって収入が安定していないとは言え、家賃の滞納を一度もしたことが無い筈の自分への反応がこれならば、世間的に自分の立ち位置とはそう高いものではないという事なのだろう。

 未だに資源衛星から採取できる資源がある内は仕事が途切れることはないだろうし、もしもの為の貯蓄もある程度用意してある身としては負い目を感じる要素は無いのだが。

 とは言え、感情的に他人に当たればその報いは自らの弱い”立場”に返ってくることが明白である以上、機嫌を損ねるような振る舞いを避けるのが賢明というものだ。

 そんな考えに至ったのは買い物を済ませた帰路の途中、自らの住む賃貸住宅の大家とばったり出くわしたことが原因である。

 善良な一般人であることを疑ってはいないが、立場上人と関わることが多いことから話上手であると同時に、話し相手からの影響を受けやすいという一面を持ち合わせていた。

 そのことがジロウに、大家に対する苦手意識を抱かせているのである。

 告げられる言葉は相手を気遣ったものが殆どなのだが、偏った考え方のまま口にすれば棘を含んだ物言いのように聞こえることもあるため、その事にストレスを感じないと言えば嘘になるだろう。

 挨拶に始まって簡単な近況を説明した後、期日までに家賃の支払いを済ませることを告げたジロウに対して、大家は上機嫌の様子であった。

 これは話を早めに切り上げられると期待したものの、話が世間話から孫娘の自慢に移った辺りから暗礁に乗り上げ、終いには他の賃貸に住まう面々とのトラブルの話題に発展したことで観念し、足を止めて話に耳を傾けることにする。

 それは解決を目的とした相談では無く、自らに折り合いをつける為の愚痴に近いものであったが、相手の立場に立って考えれば苦労をしていることは間違いない。

 だからこそ、建前を含めた上でのその一言をジロウは口にしたのだ。


「大家というのも大変なんですね。いつもお世話になってますし、仕事の無いときなら手が空いてますんで、声掛けてくれたら何か手伝いますよ」


 そう、建前である。

 だが世の中には、それを正直に受け取る人間も居るのだ。

 そして、仕事帰りに出くわしたこの状況に於いて、ジロウが今自らが口にした、”仕事がなく手の空いている時間”であることは誰の目にも明らかである。

 寝る間を惜しんでとまではいかなかったものの、後回しをして少しずつ蓄積していったらしい細かい仕事を立て続けにお願いされ、解決の為に散々こき下ろされた彼が解放されたのは、日付が変わりそうなくらいに夜も更けた頃合い。

 墓穴を掘るというのは、まさにこの瞬間を表現する為にあるような言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ