#6 「給料」
警備員から解放されて雇先の企業に戻ったジロウは、没収されることなく返却された採掘資源の引き渡しを無事終えると、査定の結果を待っていた。
ちなみに、作業者が採取した資源の価値がそのまま賃金の額になるという訳では無い。
これは雇い主である企業との取り決めにより、取引先の業者との間に雇い主の企業が仲介する形で売却することを義務付ける契約が成されていることに起因する。
簡潔に言えば、実際の売却価格から企業側の利益分の額を差し引いたものが、作業者の取り分になるのである。
安定した流通ルートを確保したい企業側と、実作業の環境を整えてもらいたい作業者側の利害が一致したことで生まれた仕組みだが、残念ながら両者の立場は平等とは言い難いものだった。
安定した資本を持つ企業側に利益が傾き、労働者側にそのしわ寄せが行く現実は、どれほどの時代を重ねようと変わり映えのしない悪しき伝統の1つと言える。
ただ、作業者の立場であるジロウ個人としてはこの仕組みに対し、さほど大きな不満を抱えている訳ではない。
細かい部分はさて置くとしても、自身の生活の最低水準を守るための正当な対価であることを納得しているというのが、その理由である。
生真面目すぎる生き方と陰で笑われそうな考え方であることはジロウ自身も自覚しており、それどころか実際に指摘された経験も何度かある程だ。
彼の目前で査定を黙々と進めている鑑定士もその1人であり、顔見知りとなった今では陰口どころか面と向かってハッキリと告げてくるようになってしまっていた。
今となっては、逆にそこまで言われるのであればいっそ清々しいと割り切れるほどである。
今日も今日とて、馬鹿正直な応対をして警備員を怒らせた経緯を世間話として口にすれば、それに対して二言三言と棘のある指摘を返されたのであった。
しかし、場を取り繕うための手段であればその都度考える余地はあるが、仕事を続けていくことを決めている以上、それに対する向き合い方を変える訳にはいかないと言うのが、ジロウの結論である。
「真面目に生きていくのにも、色々な形があるんだろ。俺なんかは特に不器用だから、高望みするよりは地道に貯金していく方が肌に合うんだよ」
その言葉に返されたのは、辛気臭いものを見て呆れ返ったという率直な感想を見事に表現した苦笑いだった。
それでも、同時に差し出された明細の額が予想より多かったこともあり、ジロウは機嫌よくその反応を受け入れたのである。
衣食住の維持費と将来に備えた僅かな積立を差し引いた手取りの金額を計算しながら、挨拶もそこそこに家路を急ぐその脳裏にあるのは、身体の疲れを癒す休息の時間と、ほんの些細な娯楽の為に必要な、嗜好品を手に入れる為の小銭のみ。
不味いビールも今日ばかりは心地良い喉越しを感じさせてくれるかも知れないと思えば、期待半分ながらもその足は自然と軽くなるのであった。