#5 「事情聴取」
個人としての主義主張を掲げることは、人間として当然の権利であることに疑問を挟む余地はない。
ただ、我を押し通すことによって周囲との摩擦を生じた際の責任は、自分自身で背負うことが前提となることも確かである。
故に、その行いに於いて命を落としかねない状況に陥ることですら、受け入れられて然るべきだ。
但しその行いによって生じる責任が、その範疇を超える場合はその限りでは無い。
ましてや、ただその場に居合わせただけで理由も分からずに死の危機に直面したとあっては尚更だ。
作業機械オートランによる資源衛星の掘削作業中に、何らかの武装勢力であると思わしき襲撃者に襲われた立場であるジロウは、直面した事態に対して怒りの言葉を上げるだけの権利はある筈である。
全く落ち度のない自分が、何の関係も無い暴漢に襲われたという状況を鑑みれば当然のことだ。
しかし、今彼の心を占める怒りの矛先は自分を襲ったオートラン操縦者ではない。
隔離された密室と言うべき手狭な取調室にて、机を挟んで向かい合う若手の警備員であった。
過激な行動に移る武装勢力が居る以上、それを取り締まる立場の人間を存在していても不思議はない。
ただ、被害者である筈の自分がまるで容疑者のように取り調べられているこの状況だけは、どうしても納得のいかないジロウであった。
問題となっているのは、自らに降りかかった火の粉を振り払うために行った行動による、その結果だ。
あまりにも手際良く戦闘用オートランを無力化したことから、容疑者とは別の武装勢力に属しているのではないか、という疑いを掛けられたのである。
罪を憎む姿勢と、現状を改善する為の行動を躊躇わない熱意は称賛に値するものだが、それが見当外れな指摘によって冤罪を被せられるような事態になれば、当然ながら受け入れられる訳が無い。
ジロウは誤解を解くために、警備員の指摘する”自身の操縦技術の高さの理由”に関する疑問への解答を口にした。
「不満を募らせてごねてる不良と、毎日仕事に明け暮れている作業者の、どっちがマシンの扱い方に長けているかって話じゃないのか?」
彼にとってのオートランの操縦とは、日々の作業をこなす上で自然と身に付いた技術である。
その事実を、仕事を放り出して暴れ回るような人間と一緒にされる根拠にされるのは心外だった。
偏にその思いを伝えるべく口にした言葉であったが、その口調が多少感情的になってしまったことが、必要以上に相手の神経を逆撫でしてしまったようである。
今にも掴み掛かってきそうな程に激昂した若手警備員の姿に肝を冷やしたジロウは、騒ぎを聞きつけて現れた年配の警備員の仲裁によって事なきを得た。
例え正論であろうと、強い言葉で相手に迫れば反発を招いてしまうのは当然で、それでは力で我を通そうとした武装勢力の奴らと何ら変わりない。
そこまで思い至ったことで、ジロウは素直な謝罪の言葉を口にする決心をし、若手警備員もまた自らの非礼を詫びた。
ようやくのことで誤解は解け、ジロウは無事釈放される次第となったのである。