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オートラン  作者: たくみ
ナルサワ=コヨミ編
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#4 「過去からの追跡者」

 今日に至るまでの全ての情報が資料室に収められているのかと言えば、紙媒体としている以上ある程度の限界はあるだろうと推測できる。

 であれば、保管スペースに余裕を持たせる為に、或いは残されては体制側の不利益に繋がりかねない情報を検閲し、削除されることもあったことだろう。

 大元の情報が失われれば当然、それを読み解く後続の人間に伝達されることはない。

 ただ、不自然に穿たれた情報の穴を認識することが出来るのであれば、行間を読む要領でそれを補うことは可能であるかも知れない。

 例えば、サテライト7到達前の人類が直面した"災厄"と呼ばれる事象はそのほとんどの情報が消失しており、衛星に移住が進められた後も箱舟に留まった管理側の人間の内輪に於いて、噂として流れているような有様であった。

 曰く、1つ前の資源衛星に取り残された人類の末裔がその復讐の為にこの衛星へと訪れている、と。

 箱舟以外に広大過ぎる宇宙空間を移動する手段は無いとされてきた人類にとっては、そのような話など信憑性のない戯言であると笑うのが現代における常識というものだ。

 故に生活の安定に伴って増えている現状に於ける犯罪行為は、あくまでも現状に不満を抱く者たちによる一時的な反抗がその理由であると結論づけている。

 だが確かに、そういった反体制の活動が増える度に、それを統率する思想的な繋がりが存在していると勘ぐるのは無理もない話だ。

 同時に、騒動の裏に煽動者が存在しているという憶測を裏付けるだけの確証も、また存在しないのである。


「"六番目の亡霊"なんてものは、都市伝説の類だと思っていました。或いは、存在しているという思い込みが悪影響をもたらす可能性も、視野に入れるべきかも知れませんね」


 コヨミの手元には資料室の奥から引っ張り出してきた資料の隣に、上長から閲覧するように回された報告書が並べられている。

 それはつい先日発生した、違法改造のオートランによる武力行使とその鎮圧に至るまでの経緯を記した書類であり、公式には体制側の管理する警備員によって取り押さえられたことになっていた。

 しかしそこに記されているのは建前を取り除いた真実であり、偶々その場に居合わせたオートラン乗りの作業者が、手近にあった得物で難なく暴動を鎮圧して見せたことが明記さている。

 もっとも、コヨミ自身は暴動を誰が鎮圧したのかという事実そのものには関心が無い。

 それよりも、敵対者が集団行動を取っていたという事実と、この事件の裏に何者かが潜んでいる可能性を伺わせる状況であることそのものが、件の都市伝説にまで調査を拡大させるほどに興味の対象になったのである。

 調査の結果そのものは、結局確証に至る何かを掴むことは出来なかったという、徒労に近いものだった。

 ただ1つ、明確な目的意識によって集団行動を統率する存在が居ると仮定すれば、後手に回る一方である現状の警備状況ではいずれ対処できなくなる可能性が高いだろう。

 そこに思い至ったコヨミはいつも通り静かに思考を巡らせ、資料閲覧によって脳裏に刻まれた情報の一つ一つを引き出していく。

 近い将来、人類が衝突することになるかも知れない大きな壁を、乗り越えることの出来る手段へと辿り着く為に。

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