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オートラン  作者: たくみ
ナルサワ=コヨミ編
33/36

#3 「機械仕掛けの鎧」

 現代の生活基盤、サテライト7の生活環境を整える為に活躍した作業機械こそが、オートランである。

 低重力下に於いて直立走行と二足歩行を可能とするこのマシンは、元々は宇宙空間で船外活動を行う為に使用されていた作業機械であり、マニピュレータを制御するための上半身と移動能力を制御する下半身を分割ユニットとして換装できる構造が、その名残として残されていた。

 オートランという名の由来はローラーダッシュによって車両として運用できることから、"自走"という意味を持つ言葉として与えられたのが始まりである。

 生活環境の安定によって、世代を重ねるごとにより局地に対応した機能を持つ派生機が生まれ続け、その系譜を現代に至るまで繋げ続けてきたのだ。

 時代の流れと共にその姿を変えてきた機体に関する情報もまた、資料室の一角に残されているものの1つである。

 そんな日常生活に密接した意味合いを持つ情報を、ごく一般的における日常生活という行動とは無縁のコヨミが目を通しているのは、上からのお達しによって請け負うことになった情報収集の業務故だ。

 何しろ元より膨大過ぎる量である上に、紙媒体の資料を効率よく集められる人材が他におらず、また新しく覚えようとする物好きも居ない為に、彼女が一手に引き受ける現在の構図が出来上がっていたのである。

 後の事を考えれば次へ引き継ぐ体制が整っていないことに関する懸念を払拭するべきであろうが、大して急ぐ案件ではないだろうと後回しにした結果、現在進行形で放置されている問題の1つだった。

 業務を滞りなく進ませる為に細部の詰めが甘くなることは世の常であるかも知れないが、後の世に泣きを見るのは放置を容認した責任者よりも実際に業務に当たる末端の人員となる為、根本的に改善する意識を職責問わずに共有しなければ改善することは、残念ながら不可能だと言わざるを得ない。

 加えて言うなら、その末端に位置している筈のコヨミは依頼された資料を嬉々として集めまくった上で情報の吸い上げに没頭しており、実益を兼ねた趣味を存分に貪ることの現状を変えようとする意識など微塵も抱いていなかった。


「箱舟のオービタルユニットから転用された推進機関から転換された、低重力走破用のレッグユニット。これはむしろ、旧文明時代に用いられていた作業機械の技術が流用されているのですね」


 目を輝かせながら書面の情報を読み取り、自らの知識へと変換していくコヨミは、一度得た情報を損なうことは殆どない。

 旧文明、すなわちサテライト7に到達する遥か以前、人類が惑星に居を構えていた時代に用いられた技術を彼女が理解しているのは、やはり以前に同じような情報収集の依頼を受けていたからである。

 高重力であった大地での活動では作業機械の二足歩行が困難であり、車輪による走行と重力を利用した簡易アームによって質量の大きな物品を運搬していたという記録が、この資料室に残されていた。

 "フォークリフト"と呼ばれていたこの技術の行き着いた先が現行のオートランであるという事実を知る者は、その知識を有する彼女とその報告を受けている直属の上司以外、この衛星上には存在しない。

 知りたい欲求を持つ者、知ろうとする余裕を持つ者すら定かでは無い現状に於いて、知識の継承は如何にして行われるべきなのか。

 残念ながら、当事者である筈の資料室の主がその疑問に行き当たるまでには、まだ相当なまでの時間を必要とするようである。

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