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オートラン  作者: たくみ
ナルサワ=コヨミ編
31/36

#1 「資料室の主」

 資源衛星サテライト7の外れ、居住区画から切り離された一区画に、一般人の立ち位置が禁止された領域が存在する。

 隔離空間となったその場所に存在しているのは、人類が母星からこの衛星に至るまでに使用した移動手段、"箱舟"である。

 記念碑や歴史のモニュメントとして保存されている、という訳では無い。

 いずれこの資源衛星が枯渇して次の土地へと移住することになる時を見越し、その機能を維持する為に保全されているのである。

 その目的故に無人にする訳にはいかないという理由から、管制室のシステムを利用して衛星内の各種施設の制御を担うオペレート・ルームとして活用されることとなり、都市機能を取り仕切る中枢としての役割を担うようになっていた。

 箱舟の内部、その片隅にある一室。

 広めの部屋に備えられた棚にびっしりと敷き詰められたのは、先人によって今日に至るまでの様々な出来事や、それによって齎された恩恵や被害などをデータ化した情報が蓄積された、紙媒体の資料だった。

 消耗していく箱舟内の各種資源を安定的に確保するための資源衛星への移住と、採取品の枯渇によって次の衛星へ向かう為の引き払い作業のデータもその中に含まれており、それこそ見上げるほどの棚の一部を丸々と占拠してしまう程である。

 現在に至るまで7度繰り返されてきたその工程が無事に完了しているのは、そうした情報を元に計画が立てられ、遂行されてきたからに他ならない。

 その資料の保管方法が紙媒体であるというのは、不便が先に立つ上に閲覧する上でも障害になることは確かだろう。

 一方で、採掘された燃料やソーラーパネルによる電力供給は決して余裕がある訳では無いという理由から、電子情報での長期保存に問題があるというのが、現状に於ける主流の考え方であった。

 その結果として築かれたのが、目前に広がっているかつて母星に存在していたという"図書館"のような体をした、資料室の姿である。

 保管場所でしかないこの部屋は特に電力の間引きの比率が多く、奥を見通すことさえ困難な照明の薄暗さもあって、場の雰囲気は不気味とまで言える程の空気を伴っていた。

 にも関わらずその場に平然と佇む人影があると言うのは、特異な状況であると言わざると得ないだろう。

 薄暗い書庫の一角に備えられた作業机の、手元のみを照らす局部照明の明かりによって映し出されていたのは、かじりつくように資料に目を通している女性の姿であった。


「やはり落ち着きますね。この、静寂に包まれた空間は」


 清々しいまでの笑顔を振り撒きながら1人呟いたのは、この資料室を仕事場として管理の職務についている女性、ナルサワ=コヨミである。

 一般人では目を通すどころか目通りすら叶わない情報に精通している彼女は、職責上公務員のような扱いになっている。

 とは言え、日頃からこの書庫より滅多に外へ出ない彼女の存在は希薄となっていて、それこそ誰も居ない筈の資料室に住み着いた幽霊のような認識を持たれているようだ。

 そんな彼女に割り振られた現状に於ける職務は目前の資料の管理の他、サテライト7に於いて現在進行形で進められている各種会議での取り決めを記録し、同じような紙媒体として印刷する役割も与えられている。

 しかし勝手知ったる職場に勤めていることもあって、そちらの業務は既に滞りなく終了させている。

 わざわざ空き時間を作ってまで内部資料を読み漁りつつその内容に関する考察を深めていたのは、知的好奇心を満たすというコヨミの人生におけるささやかな娯楽でしかない。

 そんな"変わり者"に分類される人物の活動拠点となっている場所こそが、この資料室なのである。

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