#5 「6番目の亡霊」
一昔前の時代、資源衛星を使い潰しながら生き長らえてきた人類は、サテライト6に於いてもこれまでと同様の処置を取るべく準備を進めていた。
次の資源衛星となる候補を絞り、箱舟による人員と物資の移送計画が立ち上がった頃合いに、1つの問題が生じていた。
発端は計画によって生じた利権の問題であり、不利な条件を呑むことを余儀なくされた勢力が体制側に反発したことが、その引き金となる。
言論による騒動から暴力沙汰へと発展したこの事件は、体制側と反抗勢力の本格的な武力衝突へと発展してしまう。
事態の収束が不可能と考えた体制側は箱舟による計画を強行し、反抗勢力側のほぼ全ての人員がサテライト6に取り残される結果となったのである。
資源の枯渇した大地に取り残された彼らは箱舟への怒りによって思想を統一し、徹底的な節制によって生き長らえる道を選びながら、飛び去った箱舟の行方を追跡し続けた。
例えどれほどの距離、時間を掛けようとも追いついて、復讐を果たす。
敵を排し自らの利を掴む、先鋭化した選民的な思想によって突き動かされる武装勢力となった存在。
”六番目の亡霊”を名乗る彼らは、今まさにサテライト7で生きる人々の生活を脅かし、その独善的な目標を達成しようとしているのである。
「ぶっちゃけ、俺には何の関係も無い話だよなぁ」
彼一人に割り当てられた個室と言う名の独房で呟かれた言葉は部屋に反響し、そして消えていった。
武装勢力と関わりを持ってしまったユキヒロは、逃げ出せば命を狙われること間違いなしの状況を少しでも改善する為に情報収集を行い、その結果得られたものに対しての正直な感想を呟いたというのが現状である。
火遊びでは済まない相手の内情を知ったところで、サテライト7での生活に慣れ親しんだ彼がその思想を理解できる道理は無い。
自分を不当に扱った企業と照らし合わせれば感情的に理解できないことはないものの、それを世の中の責任にすり替えるのは言い掛かりでしかないからだ。
無論、それを正直に口にすれば命が危ないという目先の問題に直面している以上、単なる現場作業者の1人でしかない自らに、その意見を声高に叫ぶような度胸はない。
真面目に応対した結果が”死”だと言うのなら、例え道を踏み外してでも生き延びる道を模索したいというのが、ユキヒロの考え方の到達点だったのである。
例え上っ面だけでも武装勢力の考えに従って見せることで、目前の命の危機は回避できるが、目立ち過ぎれば今度は体制側に目を付けれられてしまうだろう
どこを自らの判断基準の線引きとするべきか、自分自身の心に問い掛ける付けるユキヒロ。
ただどれだけ考えを深めたとしても、今更真っ当な道に戻れるなどとは、流石に微塵も考えることが出来なかったのである。




