#4 「因縁の巻き添え」
サテライト7で生活をしている身であれば、町を管理する体制側に対して反旗を翻す存在が居ることは周知の事実だ。
事件性の高い出来事は報道によって耳に入る上に、現場で働く立場であったユキヒロ自身、暴動の現場に鉢合わせしたこともある。
だが、日頃の不平不満を武力で訴える無法者以上の捉え方をしていなかった相手のことを、率先して知ろうと思えるような余裕が日常にあった訳であない。
故に今、その武装勢力が所有すると思わしき"戦力"を目の当たりにしたユキヒロの心は、驚愕に包まれていた。
表向きは存在しないことになっている、企業が保有するものと同様のメンテナンスルームへと案内された彼が目の当たりにしたのは、本来であれば大企業の資本によってでしか維持できない筈の作業機械、オートラン3機の改修作業である。
光を反射しない黒塗装を始め、関節部分の強化と要所を守る局部装甲の追加、積載量増加に伴う推進器の増設などが統率の取れた形で行われている光景は、無法者と一括りにしてしまうにはあまりにも統率が取れ過ぎていた。
これは最早、"組織"と呼んで差し支えのないものである。
それほどの纏まりのある存在が自分たちの生活の裏で暗躍し続けていたという事実は、これまで日常と思ってきた日々がいつ傾いてもおかしくないのだということを証明していた。
踏み込んではならない領域に足を踏み入れてしまったことを、実際に踏み入れた後に気付いてしまうと言うのは、何とも理不尽な話である。
「こんな物騒なものを持ち出して、本気で戦争でも仕掛けるつもりなのか……?」
「違いますよ。戦争は既に始まっているのです……人類がこのサテライト7に辿り着く、その前からね」
傍らに立つハザマの返事の端に含まれた、忌々しい苛立ちを隠そうともしない言葉に、ユキヒロの背筋は凍りついた。
生まれてからの人生全てを7番目の資源衛星で過ごしていれば、そこに辿り着く前の情景など想像できる筈も無い。
それほどまでの深い因縁を抱き、体制側との対立を"戦争"と明言してしまうこの"組織"が何者であるのか。
ユキヒロは遂に、その質問を口にしたのである。




