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オートラン  作者: たくみ
ヤガミ=ユキヒロ編
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#3 「火遊びの誘い」

 一時の心休まる場が、どれだけの意味を持ち得たと言うのか。

 世間的に"事故の責任を取らされて辞職した"というレッテルを貼られたことは、ユキヒロにとって大きな痛手となった。

 資源衛星サテライト7は機械的に制御されているとは言え、労力を回し続けなければ生活基盤を維持できないというのが世間的な認識であり、それを証明するかのように世間には様々な職で溢れている。

 一方で、その1つ1つの作業に課せられた責任も比例して大きくなることになり、大々的に宣伝された悪評はそれに対しての信頼度を大きく損なう要因となり得たのである。

 それでも、作業者として働いていた頃の経験を生かした職種からは需要があったのか、オートランを始めとした作業機械の操作という技術によって何とか食い繋ぐことが出来たのは幸いだった。

 だが、安定という面では芳しい結果を得ることは出来ず、求められる仕事も日雇いによる不定期な駆り出しが殆どであり、定期的な職務に慣れ親しんだ身体はそのリズムに馴染むことが出来ず、ストレスを抱える要因と成り果てていたのである。

 日を重ねるごとにヒロユキの精神は蝕まれ、これまで培われてきた社会人としての常識を象っていた根幹すら揺らぎかねない事態に直面していることを、彼は自覚していた。

 日中から職を求めて街を転々とする姿は、安定した収入を得ていたかつての自分からすれば滑稽以外の何物でも無く、自分自身が今そのような事態に陥っているという事態を思い返せば、それは耐え難いほどの屈辱を覚える程の有様なのである。

 何故、自分がこんな目に遭っているのか。

 抱えた苛立ちや怒りをぶつける矛先を見定めることが出来ないまま、次第に荒んでいく心に振り回されたまま、ユキヒロは行く宛てもないままに町を彷徨い続けていた。

 だからだろうか、その男に言葉を掛けられたのは。


「貴方の怒りの矛先にうってつけの誘いがあるんですよ。勿論、報酬には色を付けさせてもらいますよ?」


「……火遊び程度で済む話じゃなさそうなのは、気のせいか?」


 返答が返らなかったことに対しては、敢えて触れようとは思わなかった。

 心にぽっかり空いた隙間を狙うように現れた仲介人を名乗る男、ハザマの言葉の端に感じられたのは善意などではなく、己の利益になることに相手を躊躇いなく巻き込もうとする、悪意である。

 張り詰めた笑みの奥にある得体の知れないものに対しての恐怖を感じなかった訳では無いが、それでも切羽詰まった自身の環境が、その誘いを突っぱねるだけの決断を選ばせなかった。

 その心の動きすら予測済みだったとすれば、ハザマの他者を勧誘する能力は高いものであると認めざるを得ない。

 いつしか酒場の店主、スミレから言われた"少しくらい羽目を外しても"という台詞を思い出し、この状況に当てはめてしまったことはユキヒロにとって、決して正しい選択ではなかっただろう。

 至極真面目に生きて来た筈の作業者の人生は、今この瞬から逃れようのない獣道へと分岐していくことになる。

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