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オートラン  作者: たくみ
キリシマ=エイジ編
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#5 「町内会長の主義」

 確定した未来を予見できる能力でも持ち合わせない限り、想定外の事象というものは必ず起こり得る。

 "対策"とはすなわち現時点で考えられる要素から導かれた予測に対する対処であり、起きた事態に対して"万全"という結果を見出だすことは不可能だと言って良い。

 資源衛星であるサテライト7の地層から鉱物資源を採取している現状に於いて、その作業に用いられる作業機械オートランは量産体制の整えられた、必要不可欠な要素である。

 そのオートランを用いて暴動事件が発生したという情報は、エイジを再び会議へ送り戻す理由になり得た。

 再び集められた要人たちの口々から現状の詳細な説明を求められ、最終的には未然に防ぐことの出来なかったことに対する責任の所在の追求などに晒されながら、彼はただ沈黙を守っている。

 その場に居合わせた者には、その質問や追求をする権利があるからだ。

 例えば、鉱物の塊を破砕する能力を伴った作業機械が現実に存在し、それが実績を伴った成果を挙げて現場に流通しているという現状にあって、その機械が人命を脅かす扱いをされることを無くすことは可能かと問われれば、エイジは一切の躊躇なく”否”と答えるだろう。

 しかし彼の肩書、すなわち町内会長という役職の持つ立場や責任を考えれば、責任放棄とも解釈されかねない発言をするべきでは無い。

 彼の果たすべき責任は己の意志を頑なに表明することではなく、むしろ現状の混迷した状況を諌めることにある。

 それがこの会議を取り仕切る立場にある、キリシマ=エイジが果たすべき役割なのだから。

 その為にこそ、常時自らの胃にストレスを掛け続けるような苦行の現状を甘んじて受け入れているのである。

 声高に己の意見を叫ぶ者が悪意を持っている訳でも無ければ、それを諌めようとする自身に正義感を抱いている訳でもない。

 それぞれがそれぞれの立場で、己の責務を果たそうとする根元がそこにあるだけだ。

 しかしその思いは、時に感情によってその矛先を歪められることになる。

 故にエイジは、興奮状態に包まれた喧騒の中にあっても取り乱すことなく、ただ己の果たすべき責任を言葉に乗せて、淡々と応じるのだった。


「反逆行為を厳罰化によって抑制する方向で進めていくことに異を唱えるつもりはありません。後は、その考えによって疑わしいというだけで排斥されるような事態にならない為のルール作りが急務であると考えます」


 他人事のようだと非難されたところで、言葉にこそしないものの内心でその通りだと開き直って見せる。

 単純と短絡を混同して対処してしまえば、その行動によって生じたリスクに対する備えが間に合わないこともあるだろう。

 それを必要な犠牲だと割り切れるのは犠牲にならない者たちの側の理屈であり、実害を受ける者に対して許容しろと迫るのは脅迫に等しい行為である。

 無論、不利な条件を受け入れてもらわなければならない状況もあるだろうが、数の暴力によってその決断を促してしまえば、後々に蓄積した不満の爆発によって予期せぬ事態が起こる、その原因にもなりかねない。

 急がば回れを地で行く発想は、事の最前線で動いている者にしてみれば逃げの口実と受け止められてしまうのは覚悟の上。

 例え結末がどの方向に傾くことになろうと、また自らがどのような叱責の波に揉まれようと、この考え方の基本だけは手放す訳には行かないというのが、彼の意地だった。

 後は、エイジの胃がどこまで持つのかという問題であった。

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