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オートラン  作者: たくみ
キリシマ=エイジ編
22/36

#4 「町内会長の雑務」

 かくして、口論という名の1つの戦闘が終了した。

 死に体の身体を引き摺って会議室を後にしたエイジは、千里の道を歩き切る思いで自らの作業部屋に帰還し、そこで糸の切れた人形のように力尽きた。

 書類に埋もれたままの作業机にまで到達しなかったのは、書類が散乱するという余計な作業が増えなかったという点で幸運だったろう。

 その代償として、間に遮るような何かを挟む余裕も無く固い床に身体を叩きつけることとなり、そのダメージに耐える余力すら残っていない身体はそのまま力なく横たわったまま、微動だにしない。

 そのまま意識を手放してしまうことが出来れば、それはこの世における最高の贅沢であることを疑わないエイジではあったが、そこまで割り切れるほど思い切りの良い性格をしていないからこそ、その胃は容赦ないストレスによってキリキリと痛むのである。

 あと5分だけでも、この自堕落な有様を許容されたいという抗い難い本心に心の底から捉われかけた頃合い。

 まるでその瞬間を見計らったかのように、エイジに対して追い討ちを掛けるような出来事が発生した。

 備え付けられた電話から鳴り響く着信の音に対し、まるで死神が手招きをしているかのような印象を受けたのは気のせいだと自身に言い聞かせながら、鉛の置物のように固く重たい身体を気合いだけで動かして見せる。

 震える手で辛うじて手の届いた受話器を取ると、身体を起こすこともそこそこに強引に引き寄せた。

 受話器の先から聞こえてきた声は、業務内容の報告を告げる事務員のものである。

 予定になかった報告を告げる為に繋げられた回線であれば、それは突発的な非常事態が発生したが故の緊急連絡に違いない。

 一通りの話を耳にしておおよその事情を察すると、エイジは応急的な措置であることを前置きしながら指示を飛ばした。

 全てを伝え終えると受話器を置くと、エイジはそのまま力尽きたようにその場に突っ伏した。

 伝えられたのは、資源採掘の現場で作業機械を持ち出す程の騒動が発生したという報告である。

 付け加えて、事を起こした犯人は現場で返り討ちに遭っており、事件そのものは既に解決しているとのことだった。


「……じゃあ、後の仕事は事後処理だけじゃん……俺の仕事が余計に増えるだけのヤツじゃん……」


 事件を起こした犯人がどのような思いで犯行に及んだのか、またその行いで誰がどれだけの被害を受け、それに対してどのような補償や対策が必要になってくるのか。

 少し考えただけでも、検討すべき案件などいくつでも沸いてくるような状況である。

 そんな有様で、彼に周囲に対する配慮を思い浮かべるような余裕など、ある筈が無かった。

 であれば如何なる理由を持ち出したところで、余計な被害をもたらしたという揺るぎない事実を抱えることとなった犯人の主義主張に対し、理解を示すような余裕などある筈も無い。

 無論、立場上その思いをストレートに口にするつもりはない。

 しかし事に対処するに当たって、相手に妥協するような結論を出すことはあり得ないという決意だけは、今この瞬間に確定した。

 そして仕事の合間に仕事を重ねてくるという、芸術的な嫌がらせのような現実の厳しさに対する怒りだけが疲労困憊の身体を強引に動かしうる動力源となったことを、エイジは幸運であるとは微塵も思わなかったのである。

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