#2 「オートラン」
”オートラン”とは、宇宙空間での作業を想定して開発された作業機械であり、一対のマニピュレータ・アームを備えた姿は人間を模しているようである。
科学技術の粋を結集して生み出された機体の操縦免許を持つジロウは、その万能アームによってツルハシとスコップを装備し、資源衛星を掘削して鉱石や燃料を採取する仕事に勤しんでいた。
ぶっちゃけ、日雇いの作業員である。
真面目に働いている以外に形容のしようがない状態にありながら、目前に繰り広げられている騒乱に巻き込まれそうになっているという状況は、不幸な巡り合わせと言う他ない。
そして、取り乱さない程度には目前の状況に慣れてしまっているその様子からも、同情を引くには充分な理由と言えるだろう。
限り合う資源を取り合うその状況は、割と切羽詰まっている人類の状況を思えば無理のない話だ。
ただ、ジロウ個人としては”武力に訴える”という行為そのものに対してに、無駄なものであるという印象を抱いている。
力を誇示して見せたところで、人間が生きていける環境は限られているからだ。
「外へ放り出されるだけで死ぬような環境で、目先の優劣を競うような必要ってあるのかねぇ? ……あ、こっちに気付いたか?」
滑稽な見世物でしかないと割り切って、他人事のように眺めていた目前の光景。
その視界の端に捉えた現状の変化は、彼にとって望ましいものではなかった。
スコップと鍋の蓋を構えたようなその姿を”戦闘用への改造”と指摘して良いものかは疑問だったが、明確に武力を行使する意思を持つ者が自分の居る区画へと近づいてきていることだけは間違いない。
ジロウはその状況を、極めて面倒臭いものを見るような目で眺めながら、小さなため息を零した。