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オートラン  作者: たくみ
カニハラ=ダイゴ編
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#2 「違法改造」

 一般的な作業機械として普及しているオートランには、ある程度均一された効率と安全性を有する為の規格が存在している。

 これは機体の整備を担当する技術者にとってもっとも重要な要素であり、この規格に基づいた状態を維持することこそが、その仕事の本質であった。

 オートランは人が乗り込んで操縦する大型機械であるが故に、使い方を誤れば命さえ奪う凶器へと変わる危険性を常に孕んでいる。

 故に現実問題として、この規格の枠組みを越えた機体を生み出すことは絶対の禁忌とされており、カニハラ=ダイゴもまたその教えを順守していた。

 しかし、より高性能なスペックを誇るオートランの姿を想像してしまうことすら皆無、という訳では無い。

 そもそも、機械いじりを好んで行う者の思考として、より良いものを生み出したいという欲求を抱いてしまうことは、ある意味で仕方のないことである。

 資源惑星サテライト7における低重力内での運用のみを想定されたのが現行の機体に対して、この枠組みを外れた環境や状況を想定し、それに応じたカスタマイズを考えてしまうことは、技術者の性であるからだ。

 例えば、無重力での運用を想定すれば各部に推進装置を増設する必要があるだろう。

 そうなれば長期間の稼働も考慮し、大容量バッテリーやソーラーパネルの増設も必要だろうか。

 或いは、スペースデブリ内での作業も考慮して外部装甲を追加する必要があるかも知れない。

 ダイゴにとってこんなものは頭の体操レベルの息抜きであり、実際に行動に移そうなどと考えてはいない。

 そもそも、こんなものが必要になる世の中が訪れることすら、彼は信じていなかったのである。

 生きていくための資源を現地調達する為にこそ、人類は資源衛星に居住区を構えて居座っているのが現実であり、敢えてそこを離れて宇宙空間を彷徨う必要は無いだろう。

 いずれこの衛星の資源を全て採掘し終えてしまえばその前提は崩れるだろうが、ある程度の平穏な日常が維持できる現状が、そこまで切羽詰まったものとも思えないからだ。

 しかし、その平穏を脅かしかねない存在が現れたとすれば、ただの杞憂と割り切ることも出来ない。

 最近報道にも散りあげられるようになった話題の1つ、違法改造によってオートランを武力として扱う、武装勢力の存在である。

 サテライト7には、生活の土台を支えるサイクルが生む利益の循環から、ほんの僅かに外れてしまった者たちが存在していた。

 身内や周囲の人間に支えられて立ち直る者もいれば、様々な理由で世間から弾かれたまま生活していくことを余儀なくされる者もいる。

 そういった者たちの心の拠り所が暴力へ向いてしまうことを正当化することは出来ないが、同じ状況に追い込まれた時にその選択を選ばないでいられる自信があるかと問われれば、ダイゴは即答できないと言うのが本音であった。

 それでも、と彼は思う。


「宇宙で殴り合いの喧嘩なんて馬鹿な真似を許すために、俺らはオートランの整備をしている訳じゃねぇんだ」


 自らが手を掛けるオートランは、作業者の身を守るための鎧でもある。

 その本質は作業者を助ける為の機械であり、人の命を脅かすものであってはならないのだ。

 ダイゴの技術者としての矜持が、力を求めざるを得ない者たちに対して、安易に同情を抱くことを拒んでいる。

 それはぶつけどころのない怒りとして、彼の胸の内に燻ぶり続けていくのである。

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