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オートラン  作者: たくみ
タチバナ=サクラコ編
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#3 「宇宙で戦闘なんて変わった人たちですね!」

 昼の時間帯、生徒が配給される食事を求めて足を運ぶ校内食堂。

 タチバナ=サクラコにとって、報道機関の概念を表す最も身近なものと言えば、その食堂に備えられたモニター画面越しに映し出されるニュースくらいのものであった。

 一方的に与えられる情報の信憑性がどれほどかを判断する基準を持ち合わせている訳では無かったが、この土地で生活している者たちにもたらされる情報がある程度検閲された上で公開されているであろうことは、想像の範囲内である。

 既に遥か昔の出来事である、人類の宇宙進出が本格化した時代を境にして、報道に関わる概念は衰退していったとサクラコは教わった。

 資源衛星サテライト7に於いては、酸素や水と言った生命維持に必要な最低限度のものでさえ1から生み出さなければならない環境であり、報道の自由によって情報が漏洩するような事態になれば、人間と言う種そのものが滅亡に繋がりかねなかったからだ。

 サクラコ自身、その理由を疑ってはいない。

 ある程度生活環境が整っているものの、何の切っ掛けで失われてしまうか分からないという点では、現在も変わりないからである。

 モニターに映し出されている報道内容は、そうした危険を可能な限り排除した上で、申し訳程度の公平性を残したものだと、彼女は結論付けていた。

 その報道内容とは、資源採掘の現場で発生した暴動事件の顛末である。

 現状の作業環境への不満から蜂起した犯人が、戦闘用に違法改造したオートランを持ち出して暴れた結果即座に鎮圧された、というものだ。

 経緯だけを聞くと間抜けな話ではあるが、現実問題として”改造オートランを犯罪者が行使できる状況にある”という事実は大きな問題である。

 にも関わらず報道されているという事は、鎮圧に至るまでの時間の短さから”そのような事態に陥っても即座に対処できる”という点を強調したいからなのだろう。

 同時に、このような事態に陥っても対処して見せるという意志を示すことで、犯人の思想の同調者を牽制する意味合いも含んでいるのは間違いない。

 しかしそれでは根本的な解決にはならないだろうと、サクラコは思っていた。

 そもそも、サテライト7の住人達は自分たちの生活を維持することで精一杯である。

 その苦境の果てに犯罪を犯すことを選択したと言うのであれば、その原因は困窮という現実にこそあるのだ。

 無論のこと、罪を犯したのであればその責任は当人が背負うべきであり、真摯に向き合ってほしいことに変わりはない。

 それでも、体制側がただ力で押さえつける対処を取り続ける以上は、反発する力も次第に大きくなっていくことだろう。

 或いは、自分の身の回りに危険が及ぶこともあるかも知れないという不安に、サクラコは僅かに身を震わせた。

 ふと、視線の先のモニターに襲撃事件の一部を映したと思わしき記録映像が流れていることに気付く。

 槍のような武器を構えた改造オートランの突撃に対して、これに対峙したもう一体のオートランが流れるような動きで回避したかと思うと、手にした武器によって胴体の下半身、駆動系に連結している骨格部分を破壊してあっさりと無力化してしまったのである。

 作業機械オートランについて詳しい訳では無かったが、サクラコの素人目にも対処した側の機体の動きが並大抵の腕によるものではないことが分かった。

 専門的な技術を必要とする立場の人間の凄さを実感する一方で、その視線は映像の端に一瞬だけ移ったあるものに向けられる。

 それは敵機体を無力化する為に使用した、手の部分に握られた武器だった。


「……最近の自警団は、ツルハシを武器にしているんですねぇ」


 槍を使ってる機体が襲撃者であれば、それに対峙している機体の方が体制側であることは明確である。

 たまたまその場に落ちていたものを使ったにしては動きにキレがあり過ぎる気がするので、少なくともこの機体の操縦者はツルハシの扱いに長けた存在であると考えるべきだろう。

 ふと、誰が操縦しているのか、何となく興味が湧いた。

 しかし当然ながらその音も無い僅かな映像からだけでは、操縦者が誰であるのかなど分かる筈も無い。

 そしてそんなことを考えながら過ぎていく時間は、日常を逸脱することなく穏やかに過ぎていったのである。

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