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学園イノベーション  作者: 雪 かずてる
第七章 BL愛好部と水球部を助けます
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月が綺麗な映画感想戦

 「凄く熱い展開でしたね! 滅茶苦茶面白かったです!」

 「でしょう!?」


 副会長に映画を奢ってもらい、二時間以上もの間、共に過ごした僕達。

 映画の後に感想を言い合うのは当然よね? と、それからカフェにも誘われた。


 その提案は僕にとっても願ったり叶ったり。

 実はB級映画というものを観たのは今日が初めて。

 こんなに良いものとは思わなかったからびっくりだ。


 「さすがアクション映画に定評のある監督が作る作品なだけあるわね」

 「有名な監督なんですか? 確かに最後の戦うシーンは迫力が違いましたね。役者の動きが本格的っていうか」

 「あなたもあのシーンの凄さが分かるのね! あれは低予算のせいで配役も雑にりそうなところを、アクションが得意な若手俳優を起用することでカバーしているの。逆転の発想よっ!」

 「なるほど……どうりで知らない俳優さんばかりだと。あれ、でも敵役の人は結構おじさんっぽかったですよね?」

 「あの俳優さんは有名ではないけど実力派でね。あの監督さんの作品にはかなりの頻度で呼ばれているの!」


 盛り上がる感想戦。

 僕と副会長はひたすら映画について語っていた。

 これまで同性の友達としか映画を観たことがなかった僕にとっては、感想戦も初めての経験。

 B級映画にしても、このカフェにしても、初物づくしな時間となった。


 こんな状況、今までの僕なら緊張しそうなもの。

 それでも面白い映画と、末永さんや如月さんとの日常会話で女性との会話に少し慣れることが出来たお陰か、こうして楽しむことが出来ている。


 「おっと飲み物がなくなってきたわね! マスター、コーヒーのおかわり頂戴!」


 副会長が、カフェの店員にコーヒーのお代わりをねだる。

 これで五杯目だった。

 映画よりもカフェでいる時間のほうが長いと予想していなかった僕は普通にジュースを頼んでいたのだけど、副会長の中では想定通りだったのか。

 こんな暑い日にホットコーヒーを頼んだのは、お代わりが自由だからに違いない。


 最初は爽やかな笑顔で対応していた男性の店員も、三杯目から顔をしかめる。

 五杯目を頼んだ今に至っては警戒の目線を向けられ、もうこれ以上頼むんじゃないぞと訴えているかのようで少し怖い。


 「副会長は映画がお好きなんですね」

 「え、映画が嫌いな人間なんているの?」

 「……言われてみれば映画が嫌いって言う人、あまりいませんね」

 「人混みが苦手、邦画が、洋画が……。色々こだわりはあっても、映画という広いくくりにおいて嫌いだという人はいないわよ。わたしは勿論どんな映画も好きだけど、邦画が好きだわ。しかもB級映画。アメリカにいる頃からね――」


 いつもは眉間にシワを寄せている、副会長の珍しい笑顔。

 僕はその可愛らしい表情に戸惑いながら話を聞いていた。

 こんな顔もするのかと、副会長の違った一面を知ることが出来て喜ばしい。


 「お代わりは頼まなくていいの?」

 「僕は平気です」

 「そう、気を使わなくても良いのに」


 どことなく末永さんに似ている人。

 それが副会長に対する、僕の率直な感想だった。


 年下にお金を出させるわけにはいかないという、頑なな態度。

 末永さんのチェスが如く、好きなことを語りだすと止まらない喋り。

 学校での成績や、毅然とした態度。

 あと、なぜか僕が二人のパンツを見ているということも……。


 入学して僅か三ヶ月しか経っていないのに、怒涛の日々だったなぁ。




 これまでのことを振り返っていると、窓の外では夕焼けが終わろうとしていた。

 もうそろそろ、月も顔を出す時間だろう。


 この時期は日が沈むのが遅いはずなのに、あっという間だったな。

 それだけ今日という一日を楽しんだ証拠なのだろう。

 午前中にプールへ行ったのが遠い昔の様に感じてしまう。


 副会長は楽しんでくれたかな?

 これだけ楽しそうに話をしているから、多分大丈夫だと思うけど。


 「あの、副会――」

 「あのね、栗島新」

 「は、はい?」


 なんて悠長に考えていると、途端に目を釣り上げ始める副会長。

 いきなりどうしたんだろう……。


 「その副会長っての止めてくれない? それはあくまで学校の役職で、今日はプライベート。わたし、そういうのはちゃんと分ける方だから」

 「あ……すみません」


 そうか、そういうことか。

 オンオフはっきりっていうところも末永さんと同じだな。


 「アイビーでいいわ。向こうだとファーストネームで呼ぶのが普通だし」

 「え? 山田さんじゃダメなんですか?」

 「だって山田って普通じゃない? 石を投げれば当たるような苗字で呼ばれるよりは、アイビーって呼ばれたほうが特徴もあっていいわ」



 「そ、そうですか……ア、アイビーさん」

 「ええ、アラタ」


 僕は恥ずかしくなるのを堪えながら、その名前を呼んだ。

 すると、同じく下の名前で返してくる副会長……改め、アイビーさん。


 は、ははは、恥ずかしい……。

 入部テストの時に、人間こんなに緊張することあるんだって思ったけど、それに匹敵するくらいだ……。


 「何照れてるのよ。だから向こうじゃ普通なのよ?」

 「は、はぁ……」


 そんなことを言われても……。

 僕は生まれてこの方、この国でしか生活をしていないものだから分からない。




 「まぁいいわ。明日からはまた学校ね。そろそろテストも始まるし……憂鬱」

 「そうですね……」


 そういえば、もうすぐテストだったな……。


 「アラタも憂鬱なのね。わたしは今度こそ一番を取らなきゃ、万年二位とは今度こそ言わせないわよ」

 「帰国子女なのに、勉強出来るんですね。僕にとっては二位でも十分凄いですよ」


 僕はそんなこと一言も言っていないので、素直に感想を述べる。


 「別に向こうでも似たような勉強をするから問題ないわよ? 元々パパとママもいずれ日本へ来る予定だったみたいだから、わたしも日本の小説を読んだりして準備はしていたもの。それに英語は問題ないし」

 「なるほど、英語は勉強しなくても平気そうですね」

 「そうね、英語はだいたい満点よ。でも総合力ではあの末永牡丹が上、今度のテストこそは……」


 そういえば末永さん、毎回一位って言っていたな。

 まさか、それが理由で目の敵にしているんだろうか。


 「アラタは何位目標なの?」

 「はは、ベストを尽くします」


 言えない、赤点回避が目標だなんて。


 「煮え切らないわね。助けてくれたし少し見直したのに、所詮はパンツ男ね」

 「え、ちょっとそこで掘り起こすんですか!?」

 「当然よ。さすがにずっと気にすることはないけど、次こそは通報するから」

 「本当に申し訳ありませんでした……って、次はもうないですよ!」

 「本当かしら? その点における信用性はまだ低いからなんとも言えないわよ」


 アイビーさんは、怪訝そうな表情で言い切る。

 なんとも怖い。

 不慮の事故とはいえ、十分気をつけないと。


 「――それに、明日からはまた敵なんだから」

 「敵……ですか」


 僕はどうしても、彼女の敵という言葉に引っ掛かりを覚えずにはいられなかった。


 「本当に敵なんでしょうか?」

 「当たり前じゃない、何を言っているの?」


 僕の言葉に、アイビーさんは真顔のまま首をひねる。


 「だって、アイビーさん達生徒会は学校のことを思って行動しているんですよね? それに緑原達の件も介入しているってことは、文化部を目の敵にしているわけでもない。きちんと平等に見ている」

 「ええ、そうよ」

 「僕達だって根っこは同じです。アイビーさんも気に入らない部分はあるかもしれないですが、学校をより良くしていきたいという気持ちは」

 「それは、分かっているわ」

 「なら、なぜ――」




 「学校側の依頼だからよ。コンサル部も、そこまでは推測しているんでしょう?」



 アイビーさんの口から出たのは、僕が以前考えていたことだった。


 「はい。しかし誰が言っているかまでは。先生なのか、PTAなのか……」

 「今のところは先生からよ。代々、生徒会は増殖する文化部をどうにかしろと言われ続けてきたの」

 「そうだったんですね」

 「ええ。それに今年の生徒会も二学期になると世代交代、来年の生徒会にこんなくだらない遺産を引き継ぐなんてまっぴらごめんだわ」

 「でも、順調に行けばアイビーさんが生徒会長になることもあるんじゃ?」

 「それなら尚のこと面倒じゃない。早めに片付けないと、また一年間同じことを言われるのよ?」


 想像通りだったこともあって、僕はそこまで驚くことはなかった。


 「じゃあ、やっぱり漫研部の実態とか、少人数の部活のこととかもアイビーさんは事情を知っているんですか?」

 「当然。でもしょうがないじゃない、学校から言われているんだから」


 そして、この返答も僕の予想通りだった。

 やっぱりこの人は良い人なんだな。


 何かを憎んでいるわけでもなく、誰かを攻撃するわけでもない。

 ただ学校と、将来の生徒会にとって良かれと思っての行動なんだ。

 今回の件で文化部は迷惑を被っているのも事実。水球部だってそうだ。

 だからと言って、アイビーさんがやっていることを否定し、敵対するのは違う。


 「なら、僕達がなんとかしてみせます」


 だから僕は行動する。

 勿論クライアントとなっている緑原や有川さん達のことは大事だけど、最終的には学校全体で納得しなければ皆が笑顔になることはない。


 勿論、アイビーさんも。

 学校をより良い方向へ向かうことをサポートする。

 それが僕達コンサル部の活動なのだから。


 「コンサル部が?」

 「そうです。今そのための案を必死で考えて進めています。まだ言うことは出来ませんが、絶対に成功させてみせますので、待ってみてください!」

 「ま、期待しないで待っておくわ。言っておくけど、報酬は払わないからね」


 僕の決意に、真面目な顔を少しだけ崩して、笑顔を見せるアイビーさん。

 拍子抜けしたのか手持ち無沙汰になったのか、右手に持ったカップを口元へとくっつける。


 五杯目のコーヒーは、もう空になっていた。


 「はい、勿論です」


 アイビーさんも少しだけは期待をしてくれているんだから、明日からも頑張ってこの話に決着をつけないとな。

 ああ、でもテスト週間なのか……。


 複数の理由で明日からの生活に気合を入れなおしながら、僕達はカフェを出ることにした。






 「あら、もう夜ね」

 「そうですね、なんだか……」


 僕は、空に浮かび上がる月を見上げる。

 丸いお月様が美しく光っていた。


 「今日は月が綺麗ですね」


 その輝きに、僕も率直な感想を漏らす。


 「あっ、あっ………」


 突然、顔を赤らめる副会長。


 「え、どうしたんですか副会長?」

 「やっぱりアラタは変態だわこの大馬鹿者―――――!」


 僕はアイビーさんが怒って走り去る理由が分からずに、その場で佇むことしか出来なかった。

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