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学園イノベーション  作者: 雪 かずてる
第三章 プロジェクト・クイーン・サクリファイス
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末永さんは容赦がない

 「さて、週末の対抗戦まで時間もないし、これから栗島君にはチェス漬けの日々を送ってもらうわ。まずはこの本を読んで勉強してね」


 末永さんが棚から手に取り、僕に手渡してきたのはA5判の薄い冊子。

 音楽準備室の棚にはチェスの入門書もあるらしく、勝敗の付き方や6種類の駒の動かし方、特殊なルールなど。チェスを始めるために必要な知識に加え、ケーススタディまで含めた一冊になっていた。


 「違う部室の備品なのに、ずいぶん手馴れていますね……」

 「私もいくつか読ませてもらったもの、それはオススメよ」

 「末永どのは度々ワタクシのチェスの相手をしてくれてますからな! 栗島どのにもこれを機にチェスを憶えて欲しいですよ! 競技人口が増えることは大変喜ばしい!」


 入江さんは僕の右手を両手で掴んで、力強く上下に振る。

 チェス部のように一人しかいないと学校で対戦相手を探すのも困るだろうし、何より同じ趣味を持つ人が増えるのは嬉しいものだ。気持ちは分かる。


 「さ、末永どの! 我々も久々に一局打ちましょう。今日こそは負けないのですよ!」

 「ふふ、返り討ちにしてあげるわ」


 末永さんの意外な一面を見た気がした。

 普段のクールな表情ではなく、無邪気に笑うその顔は随分と楽しそう。


 「じゃ、栗島君も頑張ってね」

 「はい」


 僕も憶えるか。何ごとも挑戦だ。


 末永さんから(正確にはチェス部から)借りた本を片手に、僕は余っているチェス盤で実際に駒を動かしながら、一人黙々とルールを憶えていく。

 入門書にも書いてあるが、チェスの起源は将棋と同じくチャトランガという古代インドのゲームらしい。むしろ駒の数が少ない分、初心者にはチェスのほうが憶えやすいかもしれない。


 「ふむふむ。ポーンは斜め前の駒しか取れないんだな」

 「――あぁ、ワタクシのビショップがポーンどのに取られたですよー!」


 ポーンとクイーン以外はそれぞれ将棋の駒と同じ動きをするらしい。ビショップだと角。まぁ、僕は将棋も知らないからあまりピンと来ないんだけど……。

 

 「――ぐぬぬ! ナイトフォークですか……」


 一つの駒で、相手の二つの駒に攻撃することをフォークというらしい。桂馬と同じ動きをするナイトは、その変則的な動きを使ってフォークをかけるのが有効な戦術とのこと。


 「――ふふ、チェック」

  「甘いですよ末永どの! それはこのポーンで――ってあぁ! ピンされているです。これではキャスリングを放棄するしかないですよ……」


 チェスはキングを取られたら負け。故に相手の駒がキングを攻撃する位置にいる場合、手前の駒は動かせないらしい。これをピンという。

 キャスリングは特殊なルールで、ルークを使って王様を囲うことができるらしい。この辺はちょっと難しいな。また後で憶えよう。


 「ふふ。クイーンいただきね」

 「ああああああ! ワタクシの勝利の女神が!!」


 一番強い駒は縦横斜めに動くことができるクイーン。そのため、対戦の際はクイーンは死守しなくてはならない。


 「はい、これでチェックメイトよ」

 「ま、負けましたですよ……も、もう一戦!」

 「ええ、今日はとことんやらせて頂くわ」


 僕が黙々と入門書を読み耽っている間も、隣の二人は心行くまで対戦している。


 ただ、勝敗の行方はというと――


 「あぁ! またクイーンを取られたですよ!」


 「うう……こんな少ない手数でチェックメイトされるとは……」


 「今度こそこれでチェック――ってあぁ! そこにビショップがいたですよ!」


 一方的な展開だった。

 僕が入門書を一冊読み終える間に聞こえてきたのは、入江さんの悲鳴のみ。

 末永さんが強いのか入江さんが弱いのか分からないが、とにかく容赦がなかった。もう日が暮れようとしているのに、入江さんの勝ちどきは一度も聞こえない。


 「さて、今日はこんなものかしら。栗島君のほうはどう?」

 「はい、お借りした本は読み終えました」

 「素晴らしいわ、この調子でお願いね。明日は私達とも対局しましょう」

 「はい、是非」

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