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学園イノベーション  作者: 雪 かずてる
第三章 プロジェクト・クイーン・サクリファイス
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チェスのルールをキャッチアップ

 カツカツカツ。


 ローファーの音を響かせながら、末永さんは早い歩調で廊下を突き進む。僕は行き先も分からないまま、その後を追いかけていた。


 「あの、どこに向かっているんですか?」

 「今日、お昼に来た彼を覚えているかしら?」

 「ええっと――入江さん、でしたっけ」

 「そう、彼は昨年のクラスメイトでね。共通の趣味で意気投合して、よく手合わせをしていたの」

 「はぁ、共通の趣味――ですか」

 「ふふ。彼以外とも対戦出来るなんて、楽しみだわ」


 カツカツカツ。


 足取りが軽やかな末永さん。

 急いでいるというわけではなく、その様子は楽しみなイベントを待ちきれない子供と説明したほうが近いかもしれない。


 放課後に第三視聴覚室へ集まった僕らは、階段を一つ降り、渡り廊下を超え――


 「着いたわ、ここよ」


 西棟の二階、最奥にある教室の前までやってきた。


 コンコンコン。


 「開いてるですよー!」


 末永さんのノックに反応したのは、特徴的な喋り方をする声の主。

 許可を得て教室のなかへ入ると、お昼にスライディング土下座をやってのけた男が眼鏡を光らせていた。


 「末永どの! お待ちしていたですよ!」

 「この部屋に来るのも久しぶりね」

 「進級してからは初めてかもしれませんな……っと、そちらの方は」

 「彼は栗島君、今年コンサル部に入ってきたブランニューよ」

 「ほう、そうでしたか! して、ブランニューとは?」

 「新人クンって意味、ピカピカの一年生よ」

 「ほぉぉぉ、コンサル部にも遂に後輩が! いや、めでたい、めでたいですよ!」

 「ふふ、ありがとう。そういうチェス部は――なかなか苦戦しているようね」

 「そうなのですよ。これではワタクシが卒業すると共に廃部になってしまうですよ……」


 元クラスメイトの二人が話に花を咲かせる。意気投合というくらいだから仲も良いのだろう。なかなか割って入る隙を見いだせない。


 「ああ、ごめんなさい栗島君。置いてけぼりにしてしまったわね」

 「いえ――初めまして、栗島です。ここはチェス部の部室ですか?」

 「その通りなのですよ栗島どの! ようこそチェス部へ! ささ、こちらにおかけください」


 入江さんは腰が低い人間のようで、僕が一学年下であるにも関わらず頭を下げ、椅子を差し出してくれた。口調はまぁ、そういう口癖なのかもしれないけど。


 「ありがとうございます。でも、ここって……音楽準備室ですよね?」


 部屋の中には、木琴やパーカッションの人が使うような二つ並びの太鼓(ボンゴと言うらしい)など、大きめの楽器がそこら中に置かれている。壁際にかけられている棚には楽譜と思わしき大量の冊子。そして、隣の部屋からは合奏の心地よい音が奏でられている。


 どこからどう見ても、音楽準備室だった。


 「栗島どのが言う通り、ここは音楽準備室。ただし放課後はチェス部の部室として使わせてもらっているのですよ!」

 「そうだったんですか。でも、ここだと狭いですよね。他の教室は空いてなかったんですか?」

 「うぐぐ……チェス部はワタクシ一名の超零細部活。なかなか普通の部屋は割り当たらないですよ」

 「栗島君、紺学園は文化部の数が多いことを前に説明したでしょ?」

 「はい、僕が初めてコンサル部を訪れたときの話ですよね」


 末永さんは入江さんの言葉に割って入ると、僕の問いに頷きながら続ける。


 「それは何故かと言うと、紺学園では制約なしで誰でも部活を作れるからなの。人数は最低一人いればいいし、顧問になってくれる先生がいない場合は校長先生が担ってくれるわ」

 「あ、確かそれは入学式の日に聞いたような……でも、何でそんなルールにしているんですか?」

 「校則で必ずどこかの部活に属さなければならないからよ。でも、それだと入りたくない部活に嫌々入らなければならなくなる。その対策として、生徒はやりたい部活を自由に選べるってわけ」

 「へぇ、それで部活数が多くなって教室の取り合いになるんですね」

 「そういうこと、こればかりは人数順だから仕方ないわ」

 「ただ、ワタクシはこの部屋も気に入っているですよ。過去、音楽家でチェスの名手だった方も多い。音楽というのはチェスにとっても馴染みの深いものなのですよ」

 「なるほど……ところで、何故僕はここに呼ばれたんでしょう?」

 「勿論、来週の対抗戦に出てもらうためよ」

 「えっ、僕が……ですか? 音楽もチェスも明るくないですが……」


 末永さんの無茶振りに、僕は唖然としながら答える――が、


 「今から憶えればいいわ。コンサルタントには素早くキャッチアップする能力も必要不可欠よ」


 そんなことは百も承知なようで、譲ってくれる気配はなさそうだ。


 「栗島どの、ワタクシからもお願いするですよ。今度の対抗戦は三対三の団体戦。ワタクシと末永さんだけでは人が足りないのですよ」

 「はぁ……これもコンサル部への依頼ってことですか」

 「そういうところかしら。よろしくね、栗島君」


 まぁ、ここまで来て断るなんてことはできなさそうだし――


 「分かりました。初心者ながら、僕もお力添えさせて頂きます」


 嘆息しながら、僕は対抗戦への参加表明をした。



 「ところで末永さん、キャッチアップってどういう意味ですか?」

 「ま、頑張って追いついてねってところかしら」

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