散りゆく桜と高校デビュー
「はぁ……憂鬱だ」
柔らかな春風が吹いている。教室の外で舞い散る桜の花びらは、あれで僕らの新な門出を祝ってくれているつもりだろう。
生憎、僕に至ってはその散り様は皮肉でしかない。
入学式のときには満開でありながら、今はもう散りゆく桜の木は僕の心情を如実に表していた。
「これから、僕はどうすればいいんだ……」
窓から中庭を眺めると、散らばった花びらが無機質なコンクリートの大地を彩り、春らしい模様を描いている。
本来ならば隣を喜々として駆けていく彼らのように、もしくは桜模様をうっとりと眺める初々しい彼女らのように、僕の気分も高揚しているはずだったのだが人生はそう上手くいかない。
桜を楽しむ余裕もなければ、彼ら彼女らに交じる気力も沸いてこない。
クラスで一人佇む――かっこ良く言ってしまったが有り体に言えばぼっちの僕は、義務教育を離れることはどういうことかしみじみと感じていた。
「栗島」
そんな僕を見かねて、一人の男が声を掛けてくる。
「大木……」
僕を見降ろすように話しかけてくる彼は、同じクラスの大木。
別に見下しているわけでもなく、クラスに上手く溶け込めていない僕を嘲笑しているわけでもない。つまり、名は体を表しているだけ。
どちらかと言えば心配症な彼は大きい体躯を屈めながら、いつも下がっている眉を一層下げて僕を気にかけてくれている。良い奴だった。
ちなみに読みはオオキ君。たいぼく君ではないし、サッカー部の彼が先輩にそう呼ばれていたとしても僕は同じあだ名は使わない。
「お昼もう食べたなら、グラウンドに行かない? クラスの皆でサッカーしようって話になったんだけど」
「ごめん……パス」
「そっか、残念。また誘っていいかな?」
「ああ、よろしく」
僕は精一杯の作り笑いを浮かべる。
その顔を見てホッとした大木は、他のクラスメイトと共に教室を飛び出していった。
「サッカー、する気にはなれないな」
入学してから一週間、クラスで仲良しグループが形成されるなか、僕は未だにどのグループにも属せずにいた。
そんなことなら誘いに乗ってクラスメイトと親交を深めるべきなのは僕自身重々承知しているのだが、気乗りしないものは気乗りしない。
大木の誘いを断ったことで後ろ向きな気持ちが加速していきそうになるのをぐっと堪えるように、僕は机に突っ伏す。
下唇を噛みながら、気づけば僕は夢の世界へと逃避していた。