俺…ではなく私の名前は
「当然だ」
「なっ…何が当然なのか分かりませんよ……!?どうして私がなのですかっ!?」
戸惑いながら質問するレイチェルに対しレジェルは淡々と答える。
「……召喚主が召喚した人間や魔物の名付けを行うのは当然にして最初の使命だ。召喚主ならその程度の事は心得ておけ」
「は、はい…っ」
レイチェルは顎に手を当てる。
「んー……元男…って事ならあんまり可愛い名前じゃ無い方が良いですかね…?」
レイチェルは俺の方を向き、そう確認する。その言葉に剣の手入れを再開したレジェルは一瞬表情を変えた。…ような気がした。
「……男だと?」
今度は手入れの手を止める事無く顔を上げたレジェルは、俺の顔をじっと眺める。
「えっ……」
俺は一瞬バレたと思いどきっとしたが…まぁ、こんなのがいつまでも隠せられる訳無いか…。そう思い直すことにした。
「はい…実はこの世界で目覚めた時にはこの姿になってしまってて…」
俺は正直に自分が元は男である事実を告げた。
「……そうか」
レジェルは興味があるのか無いのか分からない返答を寄越しつつ、また視線を下に向け始めた。
「あの……出来ればこの姿は……」
どうしかして欲しい、せめて男として召喚され直したい。それを予測したかのように即座に毅然とした答が返ってくる。
「召喚前が何であれ、召喚された今の姿形で召喚主に従事しろ。そして召喚者は基本的に召喚主の命令は絶対、気に入らない名前を付けられた程度で非を述べるのは言語同断だ」
「……」
…あぁ、何故俺は女子として召喚されてしまったんだろう…。名前か?名前がいけなかったのか……?答えの出ない問答を頭の中で繰り返す……。
「んー……よしっ!」
その時、レイチェルの左手がずっと触れていた顎から離れる。どうやら名前が決まったようだ。俺は最早どんな可愛い名前でも甘んじて受け入れる覚悟を改めて整えた。
「それでは…発表しますのです」
こほん、レイチェルはわざとらしく咳払いをする。
「貴女の名前は、アリス……!アリスに決めましたのです♪」
「アリス…それが、俺の名前…」
女の子らしい名前ではあるが、そこまで可愛くも無いしまぁ…。俺はアリスという新しい名を受け入れた。
❪まぁ断る権利は無いんだけどねっ!❫
…と、頭の中で叫びながら。
「アリス…か、やはりな、レイチェルらしい命名だ」
レジェルはそう言い、少しだけ表情が緩んだ。あれ…っ、と思っている内にまた無機質な表情に戻ってしまったが。
「えへへへ……これから宜しくお願いします、アリスさん!」
レイチェルは照れながら俺に頭を下げる。
「あ、うん…よろしく、レイチェル」
「まだ済ませていなかったな」
不意に椅子から立ち上がったレジェルは俺の方を向く。
「俺の名はレジェル・アンデシウス。何とでも呼べ。それだけだ」
そう言うと、レジェルはさっさと外へ出て行ってしまった。
俺とレイチェルだけがぽつんと取り残される。