久しく逢った者
「頑張ってなのです!もう直ぐで着きますよ…きゃっ!」
さっきからずっと俺の方ばかり気にかけて歩いてたせいで…レイチェルは前を歩いていた大柄な男とぶつかった。
「おっと、嬢ちゃん気をつけな…ってあんた…レイチェルか?」
その男は親しげな笑みを浮かべた。
「えっ……わぁっ叔父さん!久しぶりなのです!さっきはぶつかってしまってすみません…っ」
レイチェルはその男に挨拶と謝罪の2つの意味を込めて頭を下げた。その頭に男の大きな手が乗せられる。
「おう、確かに久しいな…確か最後に会ったのは三年前だったか?お前さんも随分大きくなったなぁ」
その男はとても懐かしみながらレイチェルを優しくなでた。
「はい!今は昔より魔法の腕も随分上がりましたのですよっ!えへへ……私ももう1人前なのですっ」
そう言ったレイチェルの表情を見る限りとても楽しそうだ。
「そうかぁ、それは頼もしいなぁ!だが……くれぐれもさっきのは気をつけろよ?お前も知ってる通り最近は魔物共の影響でここも荒みつつあるからな…あの失われた蒼剣の影響ってことかねぇ…もしぶつかったのが俺じゃなかったら今頃死んでたかもな、わははっ!」
その男はそう言い、豪快に笑った。
「わ、笑えませんよ~…今後気をつけますのです…」
「おう、そうしろ。…ん、そっちの連れは新入りか?」
スレイヴというその男はここで初めて俺に視線を向ける。先程のレジェルとは正反対のとても穏やかで親しみ易そうな表情だ。
「はい、今日レイチェルから召喚?されてきました」
取り敢えず自己紹介をしたが、こんな変な自己紹介で良いのだろうか…。だがスレイヴは変わらぬ笑顔で俺に近づいた。
「そうか、それなら今後はレイチェルを守ってやれる位には頑張れよ!そんな良い得物を持っているならな!」
スレイヴは笑顔で豪快に俺の右の肩をバンバンと叩く。
「は、はい……ちょっと痛いです…」
スレイヴにとっては只のエールのつもりなんだろうが、叩かれた肩がとても痛い…。
「叔父さんっ彼女が痛がってるのですよ!やめてあげてくださいっ……!」
レイチェルの言葉により、荒々しいエールから救出される。
「あぁわりぃな、んじゃ、俺は今から狩りの予定が入ってんでな、またな、お前さん達」
そう言うとスレイヴは森の方へと歩いていった。
「あの人と知り合い?」
そう聞きつつ、さっきのでひりひりする肩を左手で抑える。
「私の叔父さんなのです!今のパーティに入る前は叔父さんに育ててもらっていたのです!」
「叔父さん…?なぁ、じゃあレイチェルの親って……」
俺がそう言うと、笑顔だったレイチェルの表情が急に曇る。
「…えと…すみません、その話はまた今度で……取り敢えず今は宿舎へ行きましょう?」
ぎこちない笑みを浮かべながら、レイチェルはそう言って宿舎へと足を進める。その歩みは明らかに先程までより早い。
❪俺は何か…触れてはいけない質問をしたんだろうか…?❫
気にはなるが、これ以上質問するのはレイチェルに悪い。俺は黙って宿屋へと急ぐ。