謎の少女、混乱する俺。
「ん…んん…?」
…一体あれから何時間経過したのだろうか。俺は鳥の囀る音で目を…意識を取り戻した。
「ん…っと…」
いつの間に寝てたんだろう。無意識に小さな声を出しながら起き上がり、ここが何処なのかを確認する為に辺りを見回した。
「…え…?」
……そこは倒れたはずの公園ではない。俺は全く知らない街のような場所に居た。ふと気付くと俺の横には槍と斧が一体化したような武器がまるで待っていたかのように転がっている。自分のすぐ後ろには青い光が激しく光っていたが、すぐに消えてしまった。
「何だこれ…?」
俺はその武器を手に取ってみた。ずっしりと重い鉄が両手に乗る。随分精巧な作りをしている、まるで本物みたいだ。俺はしばらく謎の武器をただ観察していた。すると…。
「ようこそなのですっ!」
突然、甲高い声が俺を奇襲した。
「うわぁ!?」
自分にしてはやけに高い悲鳴と同時に……目の前にメイド服のようなものを着た少女が現れた。俺は驚きのあまり思わず尻餅をつく。
「はっ…わわ…すいません驚かせてしまって……そ…そんなつもりは…無かったんですが…」
驚かせた事に気づいたその子は先程のテンションとは一転し、おどおどしながら丁寧に頭を下げる。
「あぁ、大丈夫…それより…え?ここは一体どこ?」
これは夢?にしても夢にしては意識が恐ろしい程はっきりしている。俺は恐らくあの剣を抜いたのと同タイミングで熱中症か何かで意識を失い、それからこの子が助けてくれたんだと解釈した。
「はいなのです!此処はカルダという小さな街なのです!特に何がある訳でも無いですが、のどかで良い街なのですよっ♪」
彼女は元気良く言った。
「カルダ…?」
聞きなれない地名……少なくとも日本ではないよな……いや待て、いくら記憶力の悪い俺でもここは日本だという事くらいは覚えてるぞ。そんな心境の俺を置き去りにして女の子は更に続けた。
「ここはその街の外れの森なのです、ここから東へ暫く進むと商店街が見えてくるのでまずは貴女の召喚を依頼した私のリーダーに会ってみると良いですよ!あの方はとぉっても頼りになりますし!…とは言っても今は居ませんのですが…あ、今持ってるその武器はハルバードと言ってですねぇ、汎用性の高い物理武器なのですっ、今の貴女にぴったりな武器らしいのでプレゼントなのです♪更に貴女は…」
「ちょっと待てええぇ!!」
流石に堪らず声を荒らげる。
「ほわっ!?…な、何でしょう!?」
突然の叫びに驚く女の子。
「何でしょうも何も無ぇよ…一体どういう事だこれ…!?」
俺は女の子に問い詰める。兎に角ここは日本なのは分かってるし、下らない冗談は辞めて帰り道を教えて欲しいんだよ。
「はわぁ……どういう事って言われましても…」
女の子は首を傾げる。
「俺がどうしてここに居んのか説明して欲しいんだよ!」
「ひゃっ…わっ、分かりました!のです!そ…それでは初めから丁寧に解説させていただきますのです!」
彼女は酷く取り乱しているようだ。流石にきつく言いすぎたかもしれない。だが、今はそんな事を考慮できる状況では無かった。早いとこ帰ってゲームしたいのだ。
ーーーーーーー
「どこから説明しましょうか…えーと、まず…私達のパーティは私とリーダーの他に3人、計5人居まして…、ですがこの数だけでは私達の旅の目的達成には少々心細いかなー…と思いまして…そこで!急遽私の得意な召喚術で仲間を増やそうと思ったのですっ」
「ああ…成程…」
俺は話を半分聞き流しながら、此処に来る直前に見つけた砂場の剣の事を思い出していた。まさかあの剣が……。
「さてと、ここまではご理解いただけましたか?」
「おう、理解した」
とは言いつつ俺の頭は混乱の大安売り状態だが…。唯一つ、俺は剣を抜いてしまった事を激しく後悔していた。あれさえ無ければ俺の平凡不変な人生はずっと平凡なまま、円滑に進む筈だったのに……。
「そして、リーダー意向の元により16歳前後の女の子を適当に1人召喚した結果に選ばれたのが貴女なのですっ」
彼女は得意げに俺に指をさした。
「そうか…って、え?聞き間違いかな…もしかして今、女の子って言ったか?確かにそういう弄られ方はよくされるが…」
「ふぇ?確かにリーダーは女の子を要求して、私もそれに応じて女の子である貴女を召喚したのですが…」
「いや待てよ!?俺は名前は女子だがれっきとした男だぞ?」
ここまで露骨に女子扱いされる事も珍しい、だがおかしな事を宣う目の前の少女は、何故か嘘をついているように見えない。
「………?」
女の子はきょとんとした表情でじっと俺を見つめる。
「な、なんだよ……何か可笑しい事でも言ったか?」
俺がそう聞くと、女の子の口から信じ難い言葉が飛び出した。
「いえ……そう言われましても……貴方、どう見ても可愛い女の子なのですよ…?」
「え……?」
言われている意味が理解出来ずに固まる俺。