魔法の素質
翌朝。
俺達は大きなテーブルを囲んで全員で……ティエラを除くメンバーで食事を取っていた。テーブルにはメンバー分の目玉焼きに鮭にハムに……何だかとても懐かしい料理が多めに並べられていた。
「ネ、ネロ様……少しだけ朝ごはんが沢山すぎませんのですか…?」
レイチェルはそう遠慮がちに声を抑えながら言う。見れば鮭半分程を残して箸が止まっていた。
「そうか?…そういや今日は少しだけ作り過ぎたかもしらねぇ、食べきれないんなら僕が食うから置いときな?」
「い、いえ……食べきれない訳では……」
「ちゃんと食べないと大きくなれねえぞ?」
「レイヴ様…そんなに子供扱いしないで欲しいのです…っ」
賑やかな会話が飛び交う中、レジェルは一足先に食事を済ませたらしく、1人ソファに腰掛け、本を手にしながら何かを考え込んでいる様だった。
「レジェル……?」
俺が声を掛けるとレジェルは本を閉じ、何だ、そう一言呟くように聞き返した。
「その本って……」
レジェルの手から机へと置かれたその本…表紙が紫色で国語辞書のような厚さの本を手に取り、ぱらぱらとめくった。するとそこには炎、風、水……果ては禁呪に至るまで、様々な魔法についての事柄や解説が細かく示されていた。
「それは全知書と呼ばれる物だ。真偽の程は定かではないが、世界にも数冊しか無いと言われている……俺はそれをとある事情で手に入れたが、生憎俺には魔法能力があまり無いからお前にやろう」
「えっ…良いの?でも……」
禁呪……説明によれば敵味方関係なく、全てを破壊する兵器魔法らしい…流石にそんなのを使ってみたいとは思わないが、最初の方に載っている基本的な炎魔法でさえ使い方が全く分からない。その俺に全知書なんて貴重な物貰ったとしても使いこなせる訳が無い。
「遠慮するな、俺が持っていたようでは宝の持ち腐れだ」
それに…、レジェルはここで言葉を区切り、レイチェルが用意していたブラックコーヒーのカップに口を1つ付けた。
「うーん……ありがと、レジェル」
俺は戸惑いながらも全知書を受け取った。
「ふふふ……ようやく私の出番なのですね!」
おもむろに笑いながらそう言ったレイチェルは全知書を手に取ると、得意気にページを捲り始めた。暫く捲り続けていたレイチェルは真ん中当たりで捲るのを止め、そのページを俺に見せた。
「ついこの間魔法教えてあげますって言ったのを覚えてますのですか?」
「え……っ!?」
そう言えば俺には魔法の素質がある…とこの間話をしていた覚えがある。
「えへへっ、アリスさんに漂っている魔波からしてこの系の魔法が覚えると強いです!」
レイチェルが指を指した場所、そこには詠唱文と一緒に氷や雷のイラストが書かれていた。
「氷の絵…それにこれは雷?つまり俺は氷属性と雷属性の魔法を使えるって事?」
「そうなのです!使い方をお教えしますのでよーく聞いてくださいのですね?まずは……」
レイチェルが元気よく説明しようとした時、突如その手から全知書が消えた。
「ふぇっ!?」
驚くレイチェル、だが全知書の行方はレジェルの手だという事に気づくのに余り時間はかからなかった。
「レジェル様…何故急に取上げるのですか…っ!?」
「まさかここで詠唱させる気じゃ無かっただろうな」
少し怒ったようなレイチェルの声をレジェルは跳ね返すように言った。
「ふぇ…?駄目なのですか?」
きょとんと首をかしげるレイチェル。
「外でしろ、この部屋の中で雷なんて放たれたらどうなるか……考え付かないか?」
レジェルはそう言いながら全知書を再びレイチェルに差し出した。
「言われてみたら確かに……ってここで雷撃ってたら宿舎が火事に…っ!ご、ごめんなさいのです!!」
レイチェルは慌てて外へと飛び出していった。
「って当の本人であるアリスを置いていって何するよ…」
それを見ていたレイヴは呆れたように笑う。
「ま、レイチェルのああいうところは昔から変わってないからな、許してやってくれ」
「うんっ、取り敢えず俺レイチェルを追いかけに行ってくる」
俺はそう言い、急いで外へと向かった。




