三十路の俺
残暑見舞い申し上げます
節電の夏ですが、体調を崩さないようほどほどに。モリモリ食べて働いて、お互い頑張りましょう。……
* * *
「宅配便でーす!」
開けていた玄関から、涼しい風とともに爽やかな青年の声が入り込んでくる
いつもなら無視をしているところだが、こんな暑さのなか働いている青年を無視するほどひどい人間ではない。
まあ、玄関が開いているから居留守を使えないというのも本音だったりするわけだが
寝癖がついているであろう髪を適当に整え部屋から4mもない玄関へと向かっていく
「ここにサインをお願いしますー」
「はいはいー」
荷物を持っていた男は俺よりも少し背が小さく、顔が童顔なのか見方によっては高校生にも見えた
「ありがとうございましたー!」
帽子を外しながらお辞儀をして帰っていく宅配便の子を見送りながらドアを閉める。
若いのに、よく頑張ってんなー
届いた荷物をみて、苦笑する。
どうやらこの前ネットで注文したマウスのようだった
あの青年を見たからか、なんとなく高校生時代のことを思い出してしまう
あの頃は、きっとなりたい職業にでも就いて、20代を過ぎたらそれなりに恋人もできて、30歳くらいには結婚していたり。
そんなのが当たり前だと思っていた
でも実際は…
ふとポストを見ると3日、4日ほどの手紙や新聞でごったがえしていた
「うわ…」
新聞、チラシを適当に引き抜き手紙とはがきだけを見ていく
コンタクト、車、歯の検診、サプリメント。
機械的なハガキの中から見つけた、1枚のかき氷がプリントされたハガキ
もしや…と思い裏返してみると
表には、「残暑見舞い申し上げます」
…宛先は去年と変わらず東京。春野深月という名前を見つけた。名字が変わっていないことにひとまず安堵していると
手元からポトリとハガキが落ちる
手紙とハガキの間に別のハガキが挟まっていたらしい。
「高校の同窓会…」
日付は9月5日。彼女もくるだろうか
いいや、同窓会のようなものは好きじゃなかったはずだ。
え、待て9月5日…?今日!?
おいおいまじかよ…なんだこのハイスピードな同窓会は…俺が4日くらいためていたからか?いや、それでもハイスピードだろう。
まあどうせ、行く気はないのだけれど
行ったところで笑われるだけだ
30代にもなって家でできる仕事だけを選び、婚約者どころか恋人さえいず、人と関わろうとさえもしない俺なんて
* * *