第3話
「告っちゃえばいいんじゃね?」
大衆居酒屋で串焼きをほうばりながら友人の敦がぶっきらぼうにそう言った。
簡単に言ってくれる。やはりモテる男はいうことが違う。
敦は今のバイトで知り合った。
契約数を争っていたというのもこいつだ。
僕と違って、運動神経バツグンで会話も上手く女性には困ったことが無いらしい。僕と正反対の彼がなんで女性には縁のない僕とつるむのかはよくわからない。人は自分と正反対の人に惹かれるという話を聞いたことがあるが、それだろうか。
そう言われれば雑貨店の彼女も大人な感じで僕にはない何かを持っている気がする。
「え? 話した事も無いし、名前も知らないの?」
馬鹿かよお前。という言葉を付け加えられた。
そうです。僕はあなたとちがってヘタレなのです。彼女の姿を盗み見るだけで精一杯なのです。
「相変わらずお前はヘタレだな」
「う、うるせぇ。つか、お前はどーなんだよ。前の彼女と別れて結構たつんじゃね? モテ期は終わったのか?」
敦からの攻撃を逸らすため話題をすり替えた。僕の心はガラスなのです。
「実はさ、お前と同じようにバイト先で可愛い子見つけてさ」
敦がここだけの話だぜ、と言いたげに身を屈めて話し始める。話したくて仕方がないといった顔だ。
「どうにか落とせないか、と考えてさ。生まれてはじめて書いたんだ」
「書いた? 何を?」
「ラブレター」
秘密だぞ、と敦が付け加える。メールや携帯が発達した今だからこそ、手書きの手紙はメガトン級の効果があるらしい。
敦くん、ただし君のようなイケメンに限ると付け加えたほうが良いとおもうが。
「そしたらよ、彼女感動しちゃって。バイト抜けてしっぽりしけこんじゃった」
敦の口からいつもの卑猥な言葉が出てくる。敦も敦だが、その女も女だな。
「お前もさ、ラブレター作戦で行ったらどうだ? 案外行けっかもよ?」
「ラブレターなんか書いたこともねぇし。書けねぇよ」
貰ったことも無い、とは言わなかった。僕の小さなプライドが許さなかった。
「難しい言葉なんか必要ないよ」
「えっ? そうなの?」
「ウム。思った言葉をそのまま書けば良いのだ」
「つか、何処の先生だよお前」
そう言って敦と僕はゲラゲラと笑い転げた。
ラブレターか。恋に関しては大先輩である敦の意見を聞いてみるのもいいかもしれないな。
だけど問題は山積みだ。
まず彼女の名前も知らないし、雑貨屋とその前にブースを構える携帯販売員という接点とはいえない接点しかない。
ひと通り考えて、まぁ無理だな、と僕は思った。