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聖女の唄う鎮魂歌  作者: Allen
4章:追憶のセレナーデ
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67:現地合流











 纏っていた雷を振り払い、ミラは大きく息を吐き出す。

見渡す限りの広い平原と街道であった場所で、そこを埋め尽くさんばかりに広がっていた無数の魔物たち。

今や、その広い戦場に、動く魔物の姿は一匹たりとて存在していなかった。



(よし……やっぱり、前よりも上手く扱えるようになってるわね)



 以前、クレーテで相手にした三千もの魔物の群れ――それに勝るとも劣らぬそれであったが、今のミラは、それに対して強い危機感を覚える事はなかった。

それどころか、以前はある程度取りこぼしていた魔物たちも、今回は一匹も逃さずに殲滅を成功させている。

以前よりも寄り精密に、より協力に進化したミラの雷。

それは、プラーナの操作を覚えた事による能力の強化と、ここ一月の間ウルカと共に続けてきた修行によるものであった。

無駄に高いだけのプライドを振りかざしていた自分では、リーゼファラスに教えを請う事も出来なかっただろう――ふとそう考えて、ミラは苦笑する。

そんな彼女の様子を見上げ、隣に立っていたウルカが首を傾げていた。



「ミラさん? まだ気持ち悪いんですか?」

「いいえ……ああでも、まだ少し頭がぐらぐらするかもしれないわね」

「無理しない方がいいですよ。とりあえず、降りましょう」



 呆然とした様子から一転、ミラの強大な力に歓声を上げている地上をちらりと振り返り、ウルカはそう口にする。

あまりの歓迎ムードに、逆に面倒くさそうな表情を浮かべているウルカに対し、ミラは小さく苦笑を零していた。

ミラとしても、あまりおべっかを聞いているつもりはない。

現地に到着したからには、やらなければならない仕事がいくつもあるのだから。



「まあ、いつまでもここにいたって仕方がないのは事実だからね。とりあえず、降りておきましょうか」

「はい、了解です」



 頷くウルカに首肯を返し、ミラは跳躍する。

目標をつけた場所は、最も現場の話を理解していると思われるケレーリアの元だ。

彼女もそれを予想していたのか、歓迎するような表情でミラの事を見上げている。

そんな彼女を見下ろしつつ、軽やかに着地――しようとした所で、長時間のドライブによりダメージを受けていた三半規管の影響で、ぐらりと体勢を崩していた。



「わっと、大丈夫ですか?」

「あ……ええ、ごめんね・・・・、ウルカ」

「おいおい……魔力の使いすぎかい、お嬢?」



 着地と共にふらついた身体を斜め後ろから支えたウルカに、ミラは思わず素の調子で礼を返す。

そんな彼女の言葉に驚き、ウルカが目を見開いていた所で、若干案じるような調子を含めてケレーリアがそう問いかけていた。

言葉の違和感には気付いていないのか、特にからかう様子も無く話しかけてきたケレーリアに、ミラは感じた焦りを抑えつつ声を上げる。



「いいえ……私、あの乗り物がちょっと苦手なのよ。どうしても酔っちゃって」

「へぇ。まあ確かに、馬車とは勝手が違いそうだね」

「それもあるのだけど、運転手がどうにも乱暴でね……」

「……ふむ」



 ミラは肩を竦め、作った半眼を自分が乗ってきた車の方向へと向ける。

車内からのっそりと姿を現した黒衣の男は、周囲をぐるりと見渡した後、ミラの姿を発見してにやりと笑みを浮かべていた。

あまり係わり合いになりたくないとばかりに視線を逸らし、ミラは小さく嘆息する。

と――



「お嬢、ちょいと雰囲気が変わったね」

「え? そ、そうかしら?」

「ああ。昔のあんたは、どうにも張り詰めていた印象があったからねぇ。いい感じに力が抜けてるんじゃないのかい?」

「そうかしら? まあ、貴方が良くなっていると言うのであれば、そうなのでしょうね」



 ケレーリアが自分よりも多くを経験し、多くを見てきた事を、ミラはしっかりと理解している。

そんなケレーリアが口にした言葉であれば、適当に流していいものではないと、ミラはそう判断していた。

とはいえ、あまり深く突っ込まれたい話ではないと、ミラは半ば強引に話題を転換する。

それに、いつまでももたもたしていれば、カインがまた問題を起こすかもしれないのだから。



「さて、無駄話はこの辺りまでにしておきましょう。こちらの指揮官は貴方でいいのよね?」

「まあね。頭の固い老骨を上に据えててもいい事は無いと思うんだが」

「貴方の経験則や直感は馬鹿に出来ないし、問題児どもも貴方の言う事なら聞くでしょう? 私に指揮権を寄越しても、言う事を聞かない連中がいるかもしれないわよ?」

「そんな奴はあたしの言う事だって聞かないさ。ま、無理矢理聞かせる事は出来るけどね」

「それが出来るから、貴方にお願いしたいのよ」



 軍として動いている以上、それは必要不可欠な事であり、そしてそれが出来る人間でなければ軍を指揮する資格などない。

これに関し、ミラはまだ己が未熟であると評価していた。

カインやリーゼファラスといった癖の強すぎる者たちと行動をともにしていたという理由もあるが、実際に指揮の経験が浅い事もまた事実だ。

故に、二つ名や功績ばかりで増長し、指揮官の座に収まる事は愚の骨頂であると判断していたのだ。

上に立つものに必要な事は、他者を従えるための名声や功績だけではない。

それ相応の能力や判断力もまた重要となってくるのだ。



「まあとにかく……必要であれば、リーゼを頭に据えるわ。流石に、彼女の言葉に逆らえる人間はいないでしょうし。総大将をリーゼに、実行隊長を貴方にやってもらうのが一番だと思うのだけど……どうかしら?」

「ああ、うん。まあ確かに、その方が確実だとは思うけどね……アンタ、あの『最強の聖女』の事、随分と親しげに話すじゃないか」

「え? あー……そうね、呼び方なんて気を使わない場面が多すぎて忘れてたわ。私、彼女と友人になったのよ」

「へぇ、あれとねぇ」



 驚いた様子のケレーリアであったが、その口調も他の契約者のように畏まったものではなく、どこか親しげなものだ。

そんな彼女の言葉に、ミラは己の母がリーゼファラスと同期であった事を思い返していた。

古くから教会に所属していた以上、何らかの関係がある可能性も高い。

とはいえ、今それを穿り返しているような暇は無い。

ミラは軽く肩を竦め、再び視線を後方へと向ける。見れば、そちらからリーゼファラスとアウル、そして銃撃の指揮を行っていたレームノスの軍人が歩いてくる所であった。

その三人が近寄ってくるのを待ち、ミラはケレーリアに対して声を上げる。



「ちょうど良かったわね。ケレーリア、この方はレームノスのアルゴス将軍。将軍、こちらは聖女ケレーリア・デーメテールです」

「貴方があの有名な鉄壁の聖女、ケレーリア殿ですか。私はアルゴス、お会いで気で光栄です」

「これはご丁寧に。ま、あたしは戦場上がりの兵士なので上手い言葉は苦手ですが……お若いのに立派な事だ。さぞ、才ある将校と見える」

「ははは、私などはまだまだ未熟者です」



 互いに笑いながら口にしてはいるが、細められた視線の奥では探るような色を宿して相手の事を観察している。

ケレーリアは若年ながら上手く心の内を隠しているアルゴスを、アルゴスは老獪な笑みの中に真意を隠したケレーリアの事を、互いに厄介に思いつつも感心していた。

協力関係にある国同士とはいえ、何から何まで内情を曝け出してよいわけではない。

相手がある程度の自由を持って国内を歩く以上、警戒しなければならないのは当然の事だ。

そんな中現れたのが、軍人でありながら武人とはかけ離れた将校となれば、警戒するのは当然だろう。



「さて、ケレーリア殿。話は伝わっているとは思いますが、我々はこの駐屯地を要塞化させる為にやって来ております。我々の仕事は貴方がたの軍に対する後方支援の安定化です。具体的には、輸送部隊の護衛が主な任務となります。間違いではありませんか?」

「ええ、こちらとしてもありがたい。進軍となれば、生命線を潰される事は何よりもきついですからなぁ」

「心得ておりますとも。前線で戦っておられる貴方達を飢えさせる事などありません。我々にお任せあれ。手が空けば、こちらからも援護を回しましょう」

「はっはっは! 生憎、そこまでやって貰わなければならんほど、ファルティオンは脆弱じゃあありませんので……ご安心を」



 他国に生命線を握られるという事は本来避けたい事態ではあったが、極大の戦力を前線に集中させねばならない以上、致し方ない事だ。

上位神霊たるジュピターとヴァルカンの間で約定が成されている以上、その意にそぐわないような状況を兵が引き起こす事はない。

しかしながら、必要以上の干渉は避けなければならないのも事実であった。



(純粋な武力ではこちらが上……とは必ずしも言えなくなっちまってるのが難しい所か。ま、流石にこの超人はどうしようもないだろうけどねぇ)



 ちらりとリーゼファラスを視界に納め、ケレーリアは内心で苦笑を零す。

たった一人で戦局をひっくり返せるだけの戦力があるのだ。あまり深く気にしすぎていても仕方がない。

難しい事は参謀達に任せる事を決め、ケレーリアは駐屯地を示しながら声を上げた。



「ともあれ、この場で難しい話をしていても仕方がないでしょう。詳しい事は、落ち着いてから話すとしましょうか。今はちょいと、怪我人がおりますがね」

「おっと、気が利かなくて申し訳ない……ケレーリア殿もお疲れでしょう。話は、一度腰を落ち着けてからにするとしましょうか。我々も、色々と準備がありますゆえ」

「では、こちらも案内をつけるとしましょう。会議については……とりあえず二時間後としましょうか」

「ふむ……了解しました。では、後ほど」



 懐中時計を取り出して時間を確認したアルゴスは、軽く一礼すると、車の列の方へと戻っていく。

その姿を見送り――ケレーリアは、深々と嘆息を吐き出していた。



「やれやれ……他のはいなかったのかい、リーゼファラス」

「流石に、人選まで口を出せるわけではありませんからね。そもそも、前線に出すならばともかく、建築や護衛が主な任務となれば参謀肌の人間が出てくるのは当然の事でしょう」

「それに、レームノスにおいては戦の形式が変わりつつあるみたいだからね。先頭に立って軍を指揮する人間は、もう殆どいないのではないかしら」

「厄介なこったねぇ……と。まあ何はともあれ、久しぶりだねリーゼファラス」

「ええ、お久しぶりですね、ケレーリア」



 ケレーリアの言葉に、リーゼファラスは僅かに口元を緩めながらそう返す。

長年戦いを続けてきたケレーリアであるだけに、リーゼファラスと言葉を交わした経験もそれなりに多い。

昔から殆ど姿の変わらぬリーゼファラスは、国の中枢に近付けば近付くほど、その知り合いの数も多くなるのだ。

契約者を基本的に嫌っているリーゼファラスも、上位神霊契約者だけは例外となる。

ケレーリアは、まさにその例外に含まれる人間だった。



「壮健なようで何よりです。直接会ったのは何年振りでしたかね」

「さてねぇ。この年になると一年が過ぎるのが早過ぎるもんさ」

「一応現役なのですから、あまり年寄りくさい事は言わない方がいいですよ」

「はっ、あたしと大して変わらんくせに、どの口が言うんだかね」



 くつくつと笑うケレーリアに、リーゼファラスも朗らかに応える。

彼女のあまり見ない表情にきょとんとしながらも、気を取り直してミラが声を上げた。



「まあ何はともあれ、合流の報告は必要でしょう。リーゼ、アウルに後の事を任せられるかしら?」

「ええ、よろしいですね、アウル」

「はい、了解いたしました。いざとなったらリーゼ様の名前を使わせていただきますよ」

「それとウルカも、カインの事を見張ってて貰ってもいいかしら?」

「あー……は、はい、分かりました」



 嫌そうに顔を顰めたウルカであったが、カインを野放しにしておく危険性を察知したのか、ミラの言葉を無視できずに頷いていた。

ここには上位神霊契約者も大量にいるのだ。下手に喧嘩になれば、どうなってしまうか分からない。

到着前にミラに言い含められてはいたものの、彼がその言葉に従うはずもないだろう。



「頼むわよ……本当に」

「あー、はい。一応努力します……」



 くれぐれもと言いながら、ミラはリーゼファラスたちと共に駐屯地の内部へと向かっていく。

その背中を見送って、ウルカは一人小さく嘆息を零していた。





















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