夜明け
まだ暗い時間に起きるのはいつものこと。
二度寝したりすると絶対起きられないけど、なぜか朝はぱっと目が覚める。
夜明け前の匂いがするからだろうか。
冬のほうが、空気がしんとして、凍るくらいに痛いけど、静かで、澄んでるから好き。
今のうちは、丘の上にあるから坂がきついけど、ひとつだけ良いことがある。
夜明けを誰にも邪魔されずに見れるということだ。
マフラーを巻いて、コートを着て、そっと家を出る。
時折新聞配達のバイクの音がする。
静かな道を黙々と歩く。
5分ほどすると、高台にある公園が見えた。
小さなブランコと、砂場と、ベンチと、大きな木が一本あるだけのちっちゃな公園。
いつもの指定席は、柵の近くのベンチ。
ここからは、町が一望できるのだ。
さくっさくっと足音がする。
「暁」
ちょっと怒ったような声が聞こえる。
「おはよう、夕弥」
「おはよう。・・・だめだろう、真っ暗なうちに一人で歩いたら」
いつもいってるじゃないか、とちょっとむくれた声がする。
女の子なんだから、危ないよと言って、朝の散歩に付き合いだしてくれた夕弥だけれど、ときどき一人でいたかったり、起こすがかわいそうになったりして、一人で家を出たりする。
そうすると、ちょっと焦ったように夕弥が走ってきて、ちょっと怒る。
くすぐったくって、・・・嬉しい。
ときどき、わざとしてしまうのは内緒だ。
「ごめんね。だって、昨日遅かったでしょ?」
素直に謝ると、しょうがないなって顔をした。
すとんと横に座る。
手があったかくなった。
「冷たい・・・・また手袋忘れたんだろう」
「マフラーはしてきたよ」
夕弥の手はおっきくて、あったかい。
だれかと手をつなぐなんていやだと思っていたけど、夕弥の手は好きだ。
「ホッカイロもいるし」
「・・・・僕?」
「そう」
言われた本人はいつも微妙な顔をするけど、人間ホッカイロって良いと思う。
だって、こんなにもあったかい。
「あ、日が昇る」
朝日が昇るのは一瞬だ。
空の色が変わっていくのはとてもゆっくりなのに、顔を出したらすいすいとのぼっていく。
グラデーションを今日もしっかりと堪能する。
一日が始まる。
「帰ろうか」
「うん」
手をつないだまま、帰り途を一緒に歩く。
手は、もうぽかぽかとしていた。
「暁、二度寝しないで宿題しとけよ」
夕弥のお兄さん顔がでるとちょっとぶっきらぼうになる。
「わかってるよ」
よしよし、と頭をなでた夕弥は朝ごはん前には、また起こしてねと笑った。
今日も一緒に歩いてくれたから、朝ごはんは夕弥の好きな甘い卵焼きを焼いてあげるとしよう。