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夜
夜明けの空が好きだ。
真っ暗から、深い深い紺色に、透き通った青に、そして紫や薄い桃色へ変わっていく暁時。
あなたが生まれたとき、それはもう、空がきれいでね。
だから‘暁’って名前にしたのよ。
母さんがいう、その顔が好きだった。
父さんが残したたった一枚の写真は、私が生まれたときのもので、私の顔じゃなくて、空が写っていた。
お父さん、あんまりにも綺麗だったから写真を撮ったら、パシャって音と一緒にあなたの産声が聞こえてきたんだって。
偶然ってすごいわよね、って母さんが笑う。
父さんは、私が3歳のときに、いなくなった。
母さんは、私が16歳の時に、いなくなった。
だから今はもう思い出の中にしかその声やぬくもりはないけど。
でも、私がいるから、思い出はずっと続いてく。
明けない夜はないのだから。