第一話:魔法学校を目指して
1643年、ランド。
「フルード、本当に一人で大丈夫? お母さんがついて行ってあげようか?」
「お母さん心配しすぎだって。俺だってもう12歳だし、学校までたったの40kmしかないんだぜ。2日もありゃ着くよ」
「そうだぞ、心配しすぎだ。いざとなったら、あいつにはお父さん譲りの魔法もある。心配するな」
「長期休暇になったら絶対に帰ってくるんだよ」
「わかったよ。お母さん、お父さん、行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
「さあ、いきますか」
村を出たところで、俺は一息ついて前を見据えた。
ここランドには、10年前にアビス人の軍人「バルキザス」によって建てられた魔法学校がある。
魔法学校と言っても、誰もが魔法を使えるわけじゃない。集まるのは基本、アストロフに深い恨みがあり奴らを根絶やしにしたい奴か、己の魔法を極めたいという命知らずの猛者ばかりだ。学校を卒業したら、大体の人が軍に入る。
けれど、俺にはそこまでの強い恨みはないんだ。
ただ、5歳の時に森で迷子になり、クロバキアとの国境付近でアストロフに襲われかけたことがある。その時、命懸けで俺を救ってくれたのは、名前も知らない一般兵だった。
それ以来、俺は「誰かを助けられる存在になりたい」と思うようになった。だから魔法学校に入り、軍人になってみんなを助ける。学校には現役の軍人が先生として立っているらしいから、実践的な戦い方も教えてくれるはずだ。
歩みを進めると、目の前に大きな川が立ちはだかった。泳いで渡ってもいいが、ここはやはり魔法の出番だろう。
「『水素変幻』――凍てつけ」
水素変幻。それは水素を自在に操る俺の固有魔法。
隕石の残骸に触れた者が授かる、世界にたった一つだけの力だ。そしてこの固有魔法は、自分の子供に遺伝する。これはお父さんから受け継いだ魔法だ。お母さんも固有魔法を持っているけれど、俺にはお父さんの方が強く遺伝した。
この魔法は旅において最高に便利だ。水素さえあれば水と氷を作れるし、水があれば水素と氷を、氷があれば水素と水を相互に生み出せる。いつでも水分補給ができるし、体を冷やすことも簡単だ。川の表面を凍らせ、俺は難なく向こう岸へと渡りきった。
学校まで、あと17km。
「あー、お腹すいたなぁ……。お母さんの持たせてくれたパンもあるけど、こういう時は狩りをするのがいいよな」
お父さんは村で、畑を荒らす動物を狩る専門の狩人だった。だから俺も、弓の扱いには人一倍慣れている。
標的は、約110m先を歩く大きなイノシシ。まだこちらには気づいていない。やるなら今だ。
「『水素変幻』、水素よ凍てつけ。形状制御――氷の弓へ」
狩人は狙った獲物を絶対に逃がさない。一撃で仕留める。
「『身体強化』、力よ増せ。……今だ!」
鋭く放たれた氷の矢が、110mの距離を一瞬で切り裂き、イノシシの急所を正確に貫いた。
「よし、解体するか」
慣れた手つきで解体している間に、すっかり日が暮れてしまった。仕留めたお肉を火であぶり、お腹を満たしたところで、寝る準備に入る。
「『水素変幻』、形状制御――音響結界」
周囲の水素に生物が触れた瞬間、爆音が鳴り響くトラップだ。お父さんもいつもこの魔法で動物から村を守っていた。触れた瞬間に電撃を走らせるトラップも作れるけれど、魔力消費が激しい。寝ている間も常に3つの魔法を維持して周囲を警戒している状態だから、明日魔法が使えなくならないよう、音が鳴る程度に抑えるのが賢明だ。 明日には学校につかなくちゃな。そのためにもう寝よう。おやすみ。




