007
制服なんて破れれば新しいものに交換してくれる。お金も大した手間もかからない。それでもシキは八つ当たりしたい気分だった。
投擲用のナイフを次々と生み出し、結界かなにかを張っているアオイに投げつける。彼女には魔術師としての才能がお有りのようだった。シキは結界なんて張ることができない。魔力量的にはいくらでも張れるのだろうが、技術がなかった。
このままいけばシキが勝つだろう。投擲用のナイフを生み出すのも結界を維持するにも魔力を消費するが、断トツでシキの魔力量が優勢なのだから。
「普段ならもう寝ている時間なんだけど」
苛立ったシキは獲物を持ち変える。刀ではない。作り出したのは大きめな斧だった。普段は使わない。こんな重いものを使ったら、次の日筋肉痛になるかもしれないからだ。
シキは五日連続で戦いを挑まれた。つまるところあと二日は強制的に休みだ。筋肉痛になろうが知ったこっちゃない。
斧を振り下ろすと、あっさり結界にヒビが入った。それと同時にアオイが後方へ走り出す。逃げようたって大穴があるせいでどこも行き止まりだ。
走るの遅いなと思いながら、シキは大斧をぶん投げる。ちなみにスポーツテストのハンドボール投げはそこまで良い成績ではない。でも、当たった。アオイの脚に。分断できるほどの力は込められていなかった。刺さっただけだったが、アオイは転んだ。反撃に使われてはたまったもんじゃないので、シキはすぐに斧を消す。代わりに手元へ刀を出現させた。
「何で私に挑みかかってくるの? 自殺志願者なの? それなら屋上から飛び降りてくれないかな」
アオイは何か言いたげだった。しかし、足の痛みが気になるのかうめき声しか聞こえてこない。いや、痛いとかごめんなさいとか助けても聞こえてくる。どれも小声だった。
「ふざけんなよ」
シキがアオイを蹴飛ばした。飛んだ先にトラバサミがあったので、彼女の腕を貪ることになり、新たに悲鳴が聞こえた。
「そっちが仕掛けてきたくせに命乞いとかふざけんな。魔術師は皆自分勝手で吐き気がする」
そんなこと関係なしにシキはずっと吐き気を患っていた。今はアドレナリンが出ているので気にするほどではないが、糸が切れた瞬間吐き戻すだろう。
シキは刀を突き刺す。アオイの肩にだ。わざと急所を外した。
「ねぇ、何で魔術師になんかになろうと思ったの? こんなクソみたいなものに命かける必要なんてある?」
刀を捻じってみるも、悲鳴は上がらなかった。気絶したかと思って顔を覗き込むと唾を吐き捨てられた。
シキは黒いスラックスのポケットからハンカチを取り出す。今日、洗濯したばかりのものだ。ずぼらなシキであるが、ハンカチくらいは淑女の嗜みで持ち歩いていた。
ハンカチで汚れを拭う。頭を切った時に流れた血はブレザーで拭いたが、今回はハンカチである。
使ったハンカチは捨てた。お気に入りのものだったが、二度と使いたいと思わなかったからだ。
ズキズキと傷んでいた足はもうなんともなかった。無事だった足を瀕死の人間の顔面に打ち込む。一度ではない。二度、三度と繰り返す。
別にシキは暴れん坊だったわけではない。キレたらヤバいやつだったわけでもない。先述してある通り、真っ当に生きていた少女だった。
しかし、人は変わるものだ。
もちろんブチ切れてやっているだけではない。この様子はアーカイブに残る。アイツはヤバいと認識されれば近づく人間も減ると考えてのことだ。
お気に入りのブーツが汚れていく。胸糞悪い気分だった。
「終わりましたか?」
アリーの声で我に返った。シキはすぐに吐き気を思い出して、廊下に吐き出す。
「あらあら」
優しくアリーが背中を擦ってくれた。でもこの吐き気の原因のほとんどは彼女だった。三階から一階まで大穴をあけたのはアリーだ。そこそこの魔力を消費した。指示したのはシキなので、責めるわけにもいかない。
治療魔術を使える教員がくるまでに三度と吐いた。シキはめちゃくちゃ情けなくて、涙が出た。




