表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

003

「!」


 唐突に目が覚める。見慣れた天井……と思っていたら、美少女の顔が現れた。アリーだった。


「目が覚めましたか?」


 全て夢ではなかったようだ。アリーがこうして現界(げんかい)している限り、シキの魔力は常に消費されるし、乱される。


 アリーの顔をどけて、シキは上半身を起こす。いつもの寮の自室だった。左手の傷は(ふさ)がっていた。教職員の誰かが治してくれたのであろう。


「アリー」

「はい、何でしょう!」


 ベッドの横に座るアリーは呼ばれて嬉しそうだった。


「君は誰なの?」

「アレクサンドラです」

「いや、名前じゃなくて。私が()んだのは……妖精国の女王だ」


 再び金色のナイフを取り出す。これは確かに女王からいただいたものだ。なぜ、これを触媒(しょくばい)にして彼女が召喚されたのか。


「あぁ、それ、私の姉です」

「姉!? じゃあ君は王女様なの!?」

「あはは……一応そうなりますね……。でも、姉から〈狂戦士〉(バーサーカー)は私の城に相応しくありませんって追い出されちゃいまして」


 〈狂戦士〉(バーサーカー)〈狂戦士〉(バーサーカー)に引き寄せられて召喚されたというのか。そんな馬鹿げた話、聞いたことがない。


「お姉さんと、あまり似てないんだね……」

「歳、離れてますからねー。あはは……」


 これからどうしたものか。学園の規則に縛られているシキは、少なくともあと二年弱はここから出ることができない。


「これからどうするつもりなの?」

「え、シキについていきますよ」


 当たり前のことを聞くなという感じだった。しかし、今回シキがぶっ倒れた理由は彼女にある。魔力の大食い食らいかつドメスティック彼女だ。魔力量が多いと言っても、シキは普段自身の魔力について感じることはなかった。しかし、今は体内の魔力が乱れるのを感じている。ありたいていに言えば気持ちが悪い。


「具合、悪そうですね」


 心から心配してくれてそうなアリーに対して、「お前のせいだ」とは言えなかった。アリーの両手がシキの両肩に乗る。手の感触は人間のそれと大差なかった。


 馬鹿みたいな力で押し倒された。まるで反撃ができなかった。妖精とは皆こんなものなのか。


 シキの体に降ってきたアリーの体は思っていた以上に軽い。だが、なぜ上に乗ってきたのか。


「魔力が暴走してますね」

「君のせいだよ」


 二回目はちゃんと事実を伝えた。


「だからわたしがちゃんとしますね」

「しますって何を――」


 美少女にキスをされた。シキの人生の中で初めての経験。ファーストキスというやつだ。


「何をする!?」


 引き離そうとしたがダメだった。精一杯シキが力を込めて押し返しても、お互いの顔のすき間にできたのはニセンチほどの空間だけ。


「わたしとシキの間で魔力を循環(じゅんかん)させているだけですよ」


 今度はセカンドキスを奪われる。しかもただのキスでない。体液の交換を伴うものだ。


「んっ……」


 息が苦しい。こういう時は鼻で呼吸していいのだろうか。そんなこと教科書には書いていなかった。迷った末、シキは呼吸を止めた。顔が熱くなるのを感じる。酸欠(さんけつ)だろう。


 アリーは言動を見るよりも気遣いのできるやつだった。シキの呼吸が苦しそうになったら、少しの間だけ(くちびる)を離す。また、タイミングを見計らっては唇を奪っていく。何度かそれを繰り返すと、不思議と吐き気はなくなっていた。まだ全身の気だるさは残っているけれど、これは慣れるしかないかもしれない。


「どうです? 少しは楽になりましたか?」


 とても晴れやかな笑顔だった。妖精に下心なんてないんだろうな。


「本当はセックスした方が効率的だと思うんですけど、このくらいの魔力消費ならキスで大丈夫でしょう」

「セッ……!?」


 シキが十七年の人生で一度も発したことがない単語だった。最後まで言えなかった。


「あぁ、初めてですか。大丈夫、優しくしますよ」


 怪力(かいりき)を目の前にして説得力がなさ過ぎる。


 シキは如何に魔力消費を抑えるべきか思考する。得意ではないそうだが、彼女に魔法を使うのはよしてもらおう。あとは……。


「ねぇ。省エネモードみたいのないの? 霊体化(れいたいか)とかさ」

「わたしにそんな器用な真似ができるとでも?」


 無理か……。


「大丈夫。毎日キスしてれば体調不良にはなりませんって」


 毎日。毎日と言ったか、こいつは。シキは驚きと恥ずかしさで何も言い返せなかった。



  ◆  ◆  ◆



「わたしからも聞きたいことがあるのですが……。こちらはどういった場所なのでしょうか」


 妖精がある程度人間の知識を(ゆう)していても、この学園のことは詳しくないだろう。何せ意図的に秘匿(ひとく)されている。


 シキは簡易的に、この学園――国立東京魔術学園こくりつとうきょうまじゅつがくえんのことを話した。学園名から分かる通り、魔術師を育成するための機関である。東京のどこかにあるらしいのだが、詳しい場所は明らかにされていない。


 学園は単位制(たんいせい)であり、学年というものは存在しない。次の要件を満たした時のみ、卒業が許される。


 一つ、必須単位の取得。これはそんなに難しいことはない。シキはこの条件をすでに満たしている。


 一つ、三年以上の在籍(ざいせき)。こちらはあと二年必要である。ちなみに五年以上の在籍は退学扱いとなる。


 一つ、規定の試験に合格。試験は定期的に開かれる。シキはまだ全ての試験を受けきれていないが、今のところ全て合格している。


 一つ、見習い魔術師である生徒を五名以上殺害している。こちらもシキは余裕で通過している。


 ちなみにペナルティの蓄積(ちくせき)や規約違反などによる退学処置は、それはすなわち殺処分(さっしょぶん)を指す。冷酷な魔術師だけが、この学園から出ることが許されている。


 さらに試験や授業ではもちろんのこと、先のシキのように決闘による死亡事例は日常茶飯事(にちじょうさはんじ)である。決闘は両者による承認が必要とされるが、それは一般生徒同士の話であり、奨学生であるシキには断る権利がない。さらに〈狂戦士〉(バーサーカー)という特性上、周りからかなりの反感を買っているので狙われるのは(つね)である。規約上、生徒同士の殺し合いは決闘によるものとされているが、バレなければ暗殺も黙認される。


「一言で言えばトチ狂った学校なんだよな」


 最初はシキも受け入れられなかった。しかし、初日から命を狙われ続けた結果、たくましく育ったのだ。


「もうシキが全員殺しちゃえばいいんじゃないですか」

「……それだ」


 どれだという話ではあるが、案外妙案(みょうあん)かもしれなかった。常に人が入ってくるからゼロにはできないが、驚異(きょうい)の種は卒業前に()み取るのが手っ取り早い。


 そもそもシキは魔術師が嫌いだった。魔術も嫌いだ。そんなものこの世からなくなってしまえばいい。


「シキ、お腹が空きました」


 アリーの腹が鳴る。コスパの悪い妖精め。


「じゃあ食堂に行こうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ