表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

013

「ここは暑いですから、お部屋まで案内します」


 そう言って銀髪(ぎんぱつ)の少女は(きびす)を返した。ついて来いということらしい。


「行くんですか?」


 アリーはまだアイスが食べたいようだった。


「アイスは後でね」


 ちょっと最近、アリーに甘過ぎかもしれない。

 シキはアリーの手を引きながら、少女たちのあとを追う。桃色の方は銀髪の従者だろうか。同じ制服を着ているけど雰囲気が違う。


 入学以降、こんなにも堂々とシキに接してきたのはこの娘が二人目だった。本当に久しぶりだったからか、危ないと思ってもシキは同行することにした。


 銀髪少女はパーマをかけたセミロングの髪が目立つ。綺麗な碧眼(へきがん)も日本人離れしていた。身長は少々シキより低いくらい、平均よりは高い。シキのことを「先輩」と呼ぶからには一年目の生徒かもしれない。


 銀髪少女の少し後ろを歩く桃色少女はミディアムヘアである。やはり目立つのは髪色だろう。赤色の瞳も一度見たら忘れられない。身長はシキよりも高い。


 寮がある隣の区画、そう、特待生が住む住居区画。()わば金持ちが(つど)う場所。シキが初めて足を踏み入れる場所でもある。


 一軒の建物、一般的なサラリーマンでは手が出せなさそうな豪邸(ごうてい)についた。桃色少女が扉を開ける。


「先輩、どうぞお入りになってください」


 銀髪少女がふわふわした髪を揺らしながら中に入った。立ち止まっていると「どうぞ」と桃色少女が言った。白昼(はくちゅう)堂々、殺されるのかもしれない。嫌な汗がシャツの下を(つた)う。


「何も仕掛けてなどおりません。アイスもご用意しておりますよ」

「アイス!」


 主人の(いのち)よりアイスか。


 確かに嫌な気配は感じ取れなかった。いざとなったらアリーに暴れてもらえばいいか……と考え、シキは大きな玄関に足を踏み入れる。特に仕掛けもなければ、新手(あらて)がいることもなかった。静かな屋敷だ。


「どうぞ、こちらです」


 桃色少女が案内してくれる。応接間と思われる部屋に通された。高級そうな革張りの二人掛けソファが二つ、真ん中にガラステーブルがあった。内一つのソファにシキとアリーは座るように(うなが)された。


「シキのベッドより上等ですね」

「比べないで」


 警戒心が高まる中、高そうなティーカップに注がれた紅茶と、約束通りアイスが出てきた。毒など効かないアリーは遠慮なく食べ始めているが、シキはさすがに手をつけられなかった。


 シキの警戒は予期していたのか、目の前に座る銀髪少女は気にしていない様子だ。


「急に呼びつけてすみません、先輩。私は京久野氷織(キョウクノヒオリ)と申します」


 京久野氷織――キョウクノヒオリ。どこかで聞いたことある名前だった。


「あれはメイドのミヤコです。どうぞお見知りおきを」


 シキは名乗らなかった。相手がシキの素性(すじょう)を知らないわけないからだ。


「あぁ、ぜひヒオリとお呼びくださいね。私はまだ一年目のひよっこなので」

「一年目なら授業に出なくていいの?」

「授業の方は裏技を使って大方の単位は取得していますから。先輩もそうしましたよね?」


 ただのお嬢様ではないようだ。


「紅茶、冷めてしまいますよ」

「得体の知れないやつの紅茶を飲むと思うか?」

「思いません。まぁ、確かに毒入りですから」


 正直にも程がある。もしものためにアリーからティーカップを没収(ぼっしゅう)した。


「毒入りの紅茶を飲むほどのバカには用はないですからね」


 初対面の相手に毒入り紅茶を出すようなやつにも用はない。


「君は何者だ。私に何の用だ」


 タイミングからして盗聴器を仕掛けたのもコイツ――正確にはあのメイドだろう。


「キョウクノという名に聞き覚えはありませんか?」


 あくまで世間話、みたいなトーンでヒオリは話を始める。


「聞き覚えはあるけど……」


 どこで聞いたことあるのか覚えていない。


「先輩は二度、その苗字を聞いたことがあるはずなんです。直近だと入学式ですね」


 確かに入学式の映像は見た。あぁ、そうか。シキは一人で納得する。新入生代表の挨拶をした娘だ。思い返せば銀髪だった。


「入学式が二回目ってことは、一回目は入学以前なのか?」

「そうなりますね」


 シキがここに来る以前に会ったことがあるのだろうか。年齢も近そうだし、中学の先輩後輩とか? いや、銀髪なんて一度見たら忘れられな――


「あぁ」


 思わず声が出た。一応念のため、決闘のアーカイブを確認する。今年の二月のことだった。


 京久野氷翠――キョウクノヒスイという女学生と決闘をしたことがある。


「ヒスイは私の姉です」


 満面の笑みで言われ、場の空気が(こお)る。


「あなたが殺したヒスイの妹です」


 言い方を変えても空気が和むことはない。


 名前は忘れていたが、ヒスイとの決闘自体は忘れられぬものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ