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第64話 エリアスの母
疲れ果てた夜、城下のテラスで。
スカイとエリアスは、紅茶を前に沈黙していた。
「……スカイ」
「ん?」
「私、本当にこの国を導けるのかな。」
彼女の瞳には弱さと後悔が混じっていた。
そしてふと、母ルイーダの名を口にする。
「母は、優しい人だった。身分も低かったけど、あんなに誇りを持った人はいない。」
スカイは黙って聞いていた。
「皆、母を笑った。数値が低いからって。味方は誰もいなかった。……だけど最後まで笑ってたの。私に心配かけないようにって。」
「それで、数値主義を……?」
「ええ。あんな思いは、誰にもしてほしくない。」
スカイは拳を握った。
「エリアス。俺たちは母上の願いを継ぐんだ。誰かを下に見ない国を、絶対に。」
エリアスの瞳が揺れた。
「……ありがとう。あなたがいてくれて良かった。」
「それって、プロポーズですか?」
「ふふ、まさかね。」
夜風が2人の笑い声を運んだ。
そしてその2人の近くには一匹のバネシュがいた。




