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第47話 王の夜
月が雲の切れ間から覗いていた。
王都の最奥、誰も立ち入れぬ王寝室。
その白い絨毯の上で、老人は独り、沈黙していた。
クラウディス・フォン・アヴァンドール。
この国を支配して三十年。
数値主義がすでに制度と化した世界で、唯一その危うさを思考できる王。
「……この手は、もう剣を握れんか。」
震える手を見下ろす。
彼の“数値”はこの国で第二位。だがその身体は限界に近かった。
あの血みどろの継承戦争――兄弟たちを斬り伏せ、
勝ち取った王座の代償に、彼は永遠の痛みを負ったのだ。
「神の数字で国を保つことに、意味はあるのか……」
重く沈む思考の中、記憶が浮かび上がる。
かつて理想を語った妻の笑顔。
“国民と手を取り、国を変える”と謳った、あの妻の忘れ形見――エリアス。王は呟いた。
「次は、あの子らに賭けてみるか。」




