第141話 逆転
王都中央広場は、死の緊張に包まれていた。
ゼストールのブーツがエリアスの背中を踏みつけ、剣先が彼女の命を狙う中、
スカイがゆっくりとその前に立ちはだかる。
血まみれの左肩から滴る赤が、石畳を染める。
それでも、スカイの目は燃える炎のように輝いていた。
スカイの背後、
王宮から広場まで一本道を埋め尽くすのは、
王国守護騎士団と義勇軍の連合残存兵。
剣を構え、槍を突き出し、目をギラつかせて戦意をむき出しにした軍勢が、
獲物を狙う猛獣の群れのようだった。
息づかい一つで広場を震わせる。
対するゼストール軍は、数と戦力で圧倒的なはずが、動けない。
何かに取り憑かれた不気味な集団を前に、足がすくむ。
ゼストールは目の前のスカイを見て、信じられない顔で目を剥く。
「お前は……っ!! なぜだっ!? なぜ動けるっ!?
俺様に左肩を撃たれて、無事なはずがないっ!!
どんな魔法だ、化け物めえええ!!!」
後方のゼストール軍もざわつき、恐怖の囁きが広がる。
「化け物かよ……!?」
「あんな銃創で平然と立ってる……」
「不死身じゃねえか、そんなんありかよ……!」
「こいつヤバい気配しかしない……」
ゼストールは焦りを押し隠し、嘲るように笑う。
「まぁいい! どっちにしろ、この低数値女王は俺様の足元で動けねえ!
今まさに、俺様の剣で地獄行きだ! お前は指くわえて、女王の断末魔を聞くがいい!!」
エリアスは土に顔を押しつけられ、必死にスカイへ叫ぶ。「スカイっ!!! 私のことなんか気にしないで、逃げてぇぇ!!!
こうなったのは全部、私の責任なのっ!!
あなたさえ生きてれば、まだ希望があるわっ!! 今は生き延びてぇっ!! お願い、スカイぃぃ!!!」
スカイの瞳が、純粋な殺意で黒く染まる。
エリアスの剣をゼストールへ突きつけ、
低く不気味に響く声で言い放つ。
「ゼストール……言いたいことは、それだけか?
なら、覚悟しろ。オレはお前を目もくれず、差し違えてでも斬る。絶対に、逃さねえ。」
ギャリィイイン!!!!
エリアスの剣が石畳を激しく叩き、金属の甲高い脅威音が広場中に木霊する。
スカイのドスの効いた低い声に、ゼストール
は背筋が凍る。
(クソ……こいつ、脅しが全く効いてねえ……! まるで死神だ……!!)
スカイの本気を感じ取り、ゼストールがエリアスに囁きかける。
「オイ、エリアス。あのガキ、頭イカれてんじゃないのか?
お前の生死なんか眼中にないみたいだぜ。
お前はあいつにご執心だったみたいだが、
哀れなもんだなっははっ!!」
エリアスはゼストールに恋心を暴かれた羞恥に頰を赤らめ、悔し涙を浮かべる。
(スカイへの想いを……こんなやつに……!)
が、スカイが即座に冷徹に返す。
「何言ってる? オレがエリアスに惚れたんだ。
だからお前が『オレのエリアス』を狙った時点で、死ぬこと確定だ。命で償え。」
ゼストールが逆効果を悟り、絶句。
エリアスはスカイの言葉に胸が熱く震え、両想いの喜びが涙となって溢れる。
(スカイ……あなたも、私を……! でも、こんな時に、そんな覚悟を……怖い、あなたの目が……!)
喜びと動転が交錯する。
その時、王宮入り口から赤い火の玉が上空へ舞い上がり、
花火のようにパァンッと弾け、鋭い音を響かせる。
ゼストール軍が「なんだあれ!?」と不審がる中、
スカイがニヤリと笑う。
「それにな、ゼストール。お前はオレたちを追い詰めたつもりだろうが、逆にお前らが詰んでるんだよ。」
「ハァ!? 何をほざく! この絶望状態で、
俺様が詰んでるだと? 笑わせんな、ガキ!!」
ゼストールが嘲笑うが、スカイの冷たい目と火玉に、胸騒ぎする。
(なんだ……この見落とし感は……? 何か、ヤバい予感が……!)
突然、ゼストール軍の伝令が息を切らして駆け寄る。
「ゼストール様っ!! 大変ですっ!! 北門外の森が攻撃されてます!!」
広場に動揺の波紋が広がる。ゼストールが絶叫。
「何だとっ!?おいっ、 どういう事だっ!!
王国に援軍なんか来てねえはずだろ!!
数値教はどうした!?
奴らを孤立させるために、世界中で
テロ仕掛けてたんだろうが!!」
伝令が青ざめ顔で続ける。
「それが……各地の数値教、全てと連絡途絶です!! 最後の通信が……
『我々は神の問いに応えられなかった』とか、
『この世界の残酷な矛盾に気づいた』とか、
『数値とは幻だった』とか……
意味不明なことばかりで……。」
ゼストールが両手をワナワナ震わせ、顔を歪める。
「あの……無能信者共がぁぁ!! 何やってんだぁぁあ!!!」
それを聞いてスカイが大笑いした。
「ハハハ!! なるほど、それが奴らの断末魔か。」
ゼストールがハッとスカイを睨み、悟る。
「まさかっ、お前が……!? 数値教のテロを……っ!!」
「あぁ、まぁオレはベッドの上で動けなかったけど、フィートと協力してなんとか片付けた。
宗教に頼ったのが失敗だったなゼストール。
宗教家は自分の信じるものの為ならどんな行動でも
できてしまうから敵にしたら厄介なことこの上ない存在だ、
でも弱点もある。
宗教は盲目的になればなるほどその教義の矛盾を突かれると、今まで自分を作り上げていた物を全否定されて立ち直れなくなる。
それを利用して世界中の数値教を叩き潰した。」
スカイがゆっくりニヤリ顔を見せつけ、
剣を構え直す。
スカイが世界中の数値教テロを叩き潰した
事実にゼストール軍も動揺を隠せなかった。
「アイツ1人に世界中の数値教が……」
「オイ、それって結構ヤバいんじゃ……」
「オレたち、今、敵にしちゃいけない奴を相手にしてるんじゃ……」
そしてスカイは続ける。
「さて、ゼストール。
世界中の数値教テロが沈静化した今、
各国の連携を阻害するものが無くなった。
それが何を意味するか、首謀者のお前なら……
わかるよな?」
ゼストールは冷や汗をかいた。
「まさかさっき打ち上がった火玉は……、
それに今、北門の森を攻撃してるのは……!!!」
そこにゼストールへ新たな伝令が慌てて走って来た。
「ゼストール様っ!! 緊急報告しますっ!!
東門、南門、西門それぞれに向かってくる軍勢が確認されました!!
こちらの援軍ではありませんっ!!敵ですっ!!
各諸外国の国旗を掲げています!!
さらに遠くからも続々とここを目指している集団も確認されています!!
敵勢力は依然拡大中!!大至急ご指示をっ!!」
その報告にスカイの後ろにいる王国残存兵から歓声が挙がった。
ゼストールは冷や汗かきながらスカイを睨みつけた。
「こ……の、クソガキィィイイイっっ!!」
スカイは殺気のこもった目でゼストールを睨み返す。
「さぁ、覚悟しろゼストール。
今度は世界中が、お前の敵だ。」
広場の空気が、決戦の狂気に満ちる――。




