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第136話 慈悲の仮面と魔王の嘲笑




王都中央広場――血と煙の臭いが鼻を突く中、

エリアスは燃えるような瞳でゼストールを睨み上げる。


それでも、彼女の声は折れない。


「ゼストール……あなたの目的は、

王国を焼き尽くし、私たちを絶望の淵に叩き落として、

最後にあなたの手で私を殺すこと……そうでしょう?」



周囲の王国兵士たちが、胸を抉られるように息を飲む。


「陛下……そんな覚悟で……!」



一人の義勇軍の男が拳を震わせ、涙を堪える。



ゼストールは高性能狙撃銃を構えたまま、

唇の端を妖しく吊り上げる。


「ククッ……ほう、流石に俺様の好みは抑えているようだな、低数値女王よ。」



銃口がわずかに揺れ、遊び心たっぷりにエリアスの心臓を狙う。



エリアスは胸の鼓動を抑え、深く息を吸う。心の中で自分を奮い立たせる。


(耐えろ、エリアス……皆の命がかかってる!)



ゆっくり立ち上がり、声を張り上げる。


「でも、私は民まで焼かれたくない。そこで

考えたわ。民を危険から遠ざけ……かつ、

あなたが得をする方法を!」



ゼストールが目を細め、興味を装う。


「フン、なるほど。

それがお前等と王国を俺様に差し出して、

その代わりに全王国民を逃がすって寸法か?

面白い女だ。」




「ええ、そうよ!」


エリアスは一歩踏み出し、理屈を武器に切り込む。



「私をただ殺すより、私の口から直接『降伏』

を宣言させて正式に負かせば、

あなたは数値社会を否定した象徴である私を

下した英雄になるわ。

世界中が、あなたの高数値崇拝の正しさを

認めざるを得ない!」





ゼストールの笑みが深まる。


「ハハッ、確かに悪くない響きだ。だが、

それと王国民を逃がすのがどう繋がる? 

説明しろ。」




銃口を軽く回し、余裕を見せる。




エリアスは数値教の教義を逆手に取り、

声を熱くする。



「数値教だって、神を信じてるでしょう?

高数値を崇拝するだけでなく、

数値を高めようとする『努力』を

崇高だと認めてる。



あなたがただ殺戮を繰り返して王国を手に入れても、

世界はそれを『悪の手』としか見ないわ。

でも、罪のない王国民が無事に生き延びるなら……


それはあなたが『慈悲を与えた』として振る舞った証拠! 


この世界にとって良い影響の証明になるわ!!


英雄視と神聖視、二つの大義名分を手に入れて、

この国の王として世界から認められるのよ!」



ゴクッ……!




エリアスの言葉が、広場に重く響く。

ゼストール軍の兵士たちが思わず息を呑み、

互いの顔を見合わせる。


「こ、こいつ……頭切れすぎだろ……」


「女王って、こんなに賢かったのか……?」



一人の兵が震える声で呟き、

周囲に畏怖の視線が広がる。

嘲笑が、尊敬のざわめきに変わり始める。



これが、エリアス・エニーフィート……

王国女王の真価……!




だが、王国側の兵士たちは違う。

エリアスの決死の覚悟を知る守護騎士団と義勇軍は、



顔を歪め、涙を堪える。


「これが陛下の策……!!しかし、

それではエリアス陛下が報われない……!」


「くそぉっ、ゼストールめ……!」


一人の騎士が地面を拳で叩き、嗚咽を漏らす。


ゼストールは喉を鳴らし、満足げに笑う。


「ククク……流石だな、

世界サミットでチヤホヤされただけはある。

お前の言うことも、一理あるだろう。」


ゆっくり頷き、宣言する。


「良かろう。お前とクラウディスの首、

そしてこの王国を俺様に差し出すなら、

全王国民がこの王国から安全に『出る』ことを、

この俺様、ゼストール・バレスタインの名に

誓って保証しよう!」





エリアスの胸に、熱い安堵が広がる。


(やった……っ!! 

これで皆が、スカイが助かる!! 

私の手で、未来を繋いだ……っ!!)


目が潤み、僅かに微笑む。









だが、次の言葉がその希望を粉々に砕く。 


「だが、『王国の外』のことは知らん。

トラブルに遭おうが不幸に見舞われようが、

勝手にしろ。」




「…………っっ!!!!」



エリアスの顔から血の気が引く。

膝が震え、絶望が胸を締めつける。



(今、ゼストール軍は動かない……

東西南の門は塞がれてる。北門だけ……

でも、外の森に野盗と魔物の伏兵が……!!)



ゼストールの顔を見上げる。

銃を構えたままの魔王のような笑み。




エリアスは悟る。


(王国民を脱出『だけ』させて、

その後を『事故』に仕立てる気だ……っ!!

みんなが、スカイが……死ぬ!!!)




エリアスは激昂した。


「巫山戯ないで、ゼストール!!!

ちゃんと隣国まで辿り着いて、初めて

『無事に安全に出る』って認められるわっ!!! 

ただ出るだけじゃ、足りないのよ!!!」


王国兵士たちがハッと顔を上げ、希望の叫び。


「陛下、食い下がって!」


「そうだ、その調子だ!!」




ゼストールは目を細め、楽しげに嘲る。


「ほ〜う、まるで王国から

『出た後で何が起きるか知ってる』

みたいな口ぶりだなぁ? お前、随分詳しいなァ?」



「…………っっ!!!」




エリアスの背筋が凍る。


(気づいてる……北門の伏兵を、私が知ってることに……っ!!)


それでも、エリアスは声を震わせず食い下がる。


「とにかく!! 全王国民が隣国に

無事に辿り着くまでを保証するのよっ!!

それが降伏の絶対条件!わかったなら……っ!?」



「俺様に指図するんじゃねえ!!!」

 

バキィッ!! ゼストールの高性能狙撃銃の銃身の先がエリアスの頰を捉え、鈍い音が響く。


「ぐあっ……!」

エリアスが地面に倒れ込み、

金色の髪が土埃にまみれる。


唇から血が滴り、視界が揺れる。王国側は爆発寸前。


「陛下ぁぁ!!」


「この野郎、許さねえ!!」


崩れ落ちたエリアスの瞳に、涙が光る――。





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