第135話 対峙
王都中央広場の中心。
煙と血の臭いが立ち込める中、
エリアスとゼストールが向かい合う。
周辺には、
集音と拡声の二重魔法陣が展開されていた。
明らかに二人の会話を広める為のものである。
ゼストール特注の高性能狙撃銃が、
エリアスの胸元を冷たく狙う。
銃身の黒光りが、太陽の下で不気味に輝いていた。
周囲のゼストール軍と王国兵が息を詰め、
広場全体が緊張の渦に包まれる。
ゼストールは唇の左端を吊り上げ、嘲るように言う。
「さて、まずは降伏を聞かせてもらおうか、
エリアス。世界中に知らせてやるよ。
お前の完全敗北を。」
エリアスは銃口を真正面から受け止め、
真っ直ぐゼストールの目を睨む。
声は震えず、女王の威厳を保つ。
「その前に……私に向けられているその銃は、
何なの? 随分特殊なようだけど。」
ゼストールは軽く笑い、銃を愛でるように撫でる。
「フン、あの遠い距離からでも届いたのだから、
流石に気にもなるか。オレもただ鳥を狩るのは飽きるのでな。
こいつは数値教と貴族連合の力で作らせた特注品だ。
こいつを手に入れるのには苦労したぞ。
おかげであのガキを仕留める事もできたしな。」
「…………っ!!!」
エリアスの目が、まるで親の仇を
見つけたような鋭さで狙撃銃を睨む。
胸が引き裂かれる。
「その銃で……スカイがっ……!!」
周囲の王国兵士たちが拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「スカイ様を……!」「奴の銃が……!」
義勇軍の男が地面を睨み、涙を堪える。
ゼストールはその表情を見て、楽しげに挑発。
「何だその顔は?
降伏を宣言するんじゃないのか? 低数値女王よ。」
エリアスはゆっくり目を閉じ、心の中で自分を叱咤する。
(落ち着いて、エリアス。
今はみんなの時間を稼ぐ事に集中するの……
スカイ、父上、皆を……!)
深呼吸し、再び目を開く。
「ええ、ゼストール。
この私の身柄と王国を貴方に差し出します。
そのかわり、全王国民を国外へ無傷で安全に
出ることを約束してほしい。」
ゼストールは目を細め、確認する。
「その中には傷病人も含まれるのか?」
「ええ、当然よ。」エリアスは即答。
心の中で
(スカイ……これで紛れ込ませて……!)
だが、ゼストールは即座に吐き捨てる。
「ダメだ。」
エリアスの血の気が引く。冷たい汗が背中を伝う。
(まさか……スカイを逃がすことを悟られた!?
どうして……!?)
ゼストールは悪魔のような笑みを浮かべ、続ける。
「父上、いや、クラウディスの身柄もつけろ。
あの老いぼれは俺様のことを認めなかった。
粛清対象だ。」
エリアスの心が砕け散る。目を閉じ、胸の中で祈る。
(あぁ、無力な私をどうかお赦しください、
父上……っ! ごめんなさい……!)
ゆっくり目を開き、声を絞り出す。
「分かりました。父上の身柄も、貴方に渡します。」
王国兵士たちの間に嗚咽が漏れる。
「クラウディス陛下……国王陛下まで!?」
「そんな……!」
門番の老騎士が拳を震わせ、
「クラウディス陛下……!」
と呻く。
ゼストールは満足げに頷き、尋ねる。
「ついでだ。あの忌々しいガキは、
俺様に撃たれた後どうなった?」
エリアスは一瞬、迷う。
スカイの笑顔が脳裏に浮かぶ。
だが、唇を引き結び、嘘を吐く。
「……死んだと聞いたわ。
貴方に撃たれてしばらく苦しんだ後に、
治療の甲斐もなく亡くなったそうよ。
だから、こうして降伏を言い出したの。」
ゼストールは目を輝かせ、大声で広場全体に宣言。
「聴け!お前等!!あの忌々しいガキ、
スカイは死んだ!!この俺様が撃った弾で、
奴は苦しみながら呆気なく逝ったそうだ!!!」
ゼストール軍がゲラゲラと大笑い。
哄笑の嵐が広場を埋め尽くす。
「天罰だっ!!」
「数値を否定する者に生きる資格は無い!!」
「死んでせいせいしたっ!!」
「やはりゼストール様は神に愛されている!!」
嘲笑の声が、エリアスの心を抉る。
王国兵士たちは顔を歪め、剣を握りしめる。
「スカイ様を……侮辱するな!」
「くそっ……!」
義勇軍の男が涙を拭い、
「耐えろ……陛下の覚悟だ……!」
と互いを励ます。
エリアスは必死に耐え、心の中で祈る。
(これでいい……これならスカイは逃がせる……
スカイ、アナタだけはどうか生きてっ!!
私の愛を、無駄にしないで……!)
ゼストールは笑いを収め、
再びエリアスに向き合う。
銃口を少し下げ、余裕たっぷりに。
「では改めて聞かせてもらおう、エリアス。
全王国民を逃がしたとして、俺様に
一体なんのメリットがある?」
エリアスは息を呑む。
広場の空気が、さらに重く沈む。いよいよ、
本当の降伏交渉が始まる――。




